研究課題
今年度は、イネの農業上有用な形質に関わる遺伝子を効率的に同定する手法を開発し、論文にまとめた。作物育種において農業上有用遺伝子の単離・同定は、収量の増加やそれに関わる遺伝的メカニズムを解明するために極めて重要である。ゲノムワイド関連解析(GWAS)は、これまでヒトの疾患に関わるリスク領域・遺伝子の同定や疾患のメカニズム解明に重要な貢献を果たしたが、GWASによる作物を材料とした遺伝子同定は未だ稀な状況である。そこで私と共同研究者は、GWASに用いる集団選びや解析手法を改良することにより、イネの農業有用形質に関わる遺伝子の単離・同定を試み、開花や一穂粒数などに関わる複数の新規遺伝子を同定することに成功した。本研究で用いた解析手法は、本論文で対象としなかった形質にも応用可能であり、新規遺伝子の単離・同定が加速されることが期待される。根系形質は、作物の養分吸収や乾燥耐性の観点から非常に重要な形質であるが、土壌中での観察が困難なため、研究は地上部に比べて大幅に遅れている。そこで私は、根系の観察が容易になれば、上記の論文で報告した解析手法により根系に関与する遺伝子単離を行うことができると考えた。最近、根系を迅速に数値化するRoot system architecture (RSA)と呼ばれる技術が報告された。RSAは、まず透明な容器に入れたゲル内で植物体の根系を十分発達させ、根を撮影する。次に、撮影した写真をデジタルデータへ変換し、画像解析に用いることで、根系を複数のパラメーター値として表現することができる。この手法を応用し、イネの根系形質の測定を試みた所、根の長さや数などの形質データを取得することに成功した。さらに、得られた形質データを用いたGWASにより有力な候補遺伝子を同定することが出来た。来年度は、形質転換体を作成し、候補遺伝子の根系に対する効果を検証する。
1: 当初の計画以上に進展している
研究実績の概要で述べた通り、本年度は、イネの農業上有用な形質に関わる遺伝子を効率的に同定する手法を開発し、論文にまとめ、発表することができた。また、論文で報告した手法を用いることで、根系形質に関わると思われる有力な候補遺伝子を見出すことが出来た。当初の計画では、候補遺伝子を同定するところまでが今年度までの計画だったが、現在、候補遺伝子の機能を検証するための形質転換実験をすでに進めている。以上の理由により、当初の計画以上に進展していると判断した。
来年度は、形質転換体を作成し、候補遺伝子の根系に対する効果を検証する。また、前年に引き続き計測を行い、複数年の根系データを取得する。これらを用いてGWASを行い候補領域の再現性を確認する。さらに得られたデータから環境変動程度を見積もり、根系に関する遺伝率を算出する。安定的に検出された候補領域については、LDブロック解析、ボックスプロット解析、ゲノムブラウザ等を用いた解析により候補遺伝子予測を行う。さらに、前年までに特定した候補遺伝子もしくは候補領域と各種元素含量データを用いて有意な相関関係を統計的手法により解析し、元素吸収機構のネットワーク構築を試みる。
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Nature Genetics
巻: 48 ページ: 927,934
10.1038/ng.3596
http://first.lifesciencedb.jp/archives/12735