4月中は研究計画に従い、ライソシン類の構造活性相関研究に取り組んだ。前年度、これまで構造活性相関研究を行なっていなかった4箇所のアミノ酸(3残基目のセリン、6残基目のロイシン、9残基目のグルタミン、11残基目のイソロイシン)の側鎖構造をランダム化したOBOCライブラリを作成し、アッセイを行った。その結果、天然物の配列を含む26個のペプチド配列を高いメナキノンへの親和性と抗菌活性を有するライソシン類縁体の候補として見出していた。得られた候補配列の内、13個の配列からなる新規ライソシン類縁体についてさらなる機能評価、解析を行うためにスケールアップ合成を実施した。合成した類縁体を抗菌活性評価に供した結果、天然物と同等の抗菌活性を有するものが含まれることを明らかにした。 5月からは計画を変更し、学振PDの海外渡航制度により、環状ペプチド類の溶液構造解析や配座固定効果に関する知識・経験の習得を目的として、トロント大学化学科のYudin研にて環状ペプチドの構造機能相関研究に従事した。Yudin研では最近、N-(isocyanimino)-triphenylphospharane (Pinc)試薬を用いることで直鎖ペプチドを液相1工程にてオキサジアゾール/アミン構造を形成しながら環化することが出来ることを報告している。この反応で導入されるリンカー構造が、脂溶性の向上や分子内水素結合安定化による配座固定効果など、単純な環状ペプチド化合物に対し有用な特性を有することが示唆された。そこで、本リンカー構造による配座効果のさらなる検証を行なった。新たに合成した環状ペプチド類はいずれもβターン構造を主要な溶液構造として取ることが温度可変NMR測定や分子動力学計算などから示唆され、また、導入されたアミン部位が分子内水素結合に関与していることを明らかにした。
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