研究課題/領域番号 |
16J08815
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高本 聡 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
|
キーワード | 分子動力学 / 半導体絶縁膜 / 熱酸化 / 電子状態計算 / 原子間ポテンシャル |
研究実績の概要 |
本年度は、高温環境で注目されている現象として、半導体の熱酸化を対象として研究を行った。 MOSFETなどの半導体デバイスでは熱酸化によりゲート絶縁膜を作成するが、この際界面での原子の配列の不整合がデバイスの電気的特性を悪化させることが知られており、高品質な界面を作成することが重要となっている。原子スケールシミュレーションによりこの問題を扱う際に問題となるのが、酸化膜の成長という大規模な構造変化を伴う現象を対象とすること、またそれに伴う応力の蓄積などを扱うことから大きな空間スケールでのシミュレーションが必要となるという点である。また、高温環境であることによりネットワーク構造の組み換えなどを伴うため、必要な時間スケールも長大となってしまう。従来行われてきた第一原理計算に基づく解析では適用範囲の問題から静的な範囲に留まっており、このような大規模なスケールでの現象を扱うための手法が望まれていた。 本研究ではこのようなマルチスケール性の高い問題を扱うため、熱酸化の表現が可能な電荷移動型の原子間ポテンシャルの開発を行った。原子間ポテンシャル作成においてはフィッティングを行う物性の収集が重要であるが、本研究ではアモルファスや液体を含む多数の不安定な構造について第一原理計算を行い、これらを教師データとする原子間ポテンシャルの作成を行った。また、これらの構造について古典MDを通して収集することで、位相空間を能動的に探索して教師データを収集していく枠組みを作成した。一方、原子間ポテンシャルの関数形も開発を進めた。結果として、幅広い配位数に対してエネルギーおよび力を精度良く表現できるロバストな原子間ポテンシャルの作成が可能となった。また実際にSi-O-C系の原子間ポテンシャルを作成した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Siの熱酸化シミュレーション、SiCの熱酸化シミュレーションでは共にO2分子の侵入から拡散、解離による酸化膜成長までを再現する原子間ポテンシャルを作成した。得られた界面構造をもとに、界面での応力蓄積や解放のメカニズムを明らかにした。この成果をまとめて学術論文として発表した。また、SiCでは面方位によって酸化膜成長速度に違いが出る様子を再現した。 高温での長時間の動力学計算が望まれていたSiC上のグラフェン成長についても計算を行った。SiC表面からSiを除去していくシミュレーションにより、SiC表面にグラフェンが形成されていく様子を再現した。 また、金属の線膨張係数算出手法については、従来対象としていた単元系から合金など一般的な材料への拡張を目的として、古典MDと第一原理計算のそれぞれの結果をもとに線膨張係数を算出するハイブリッド手法の開発を進めた。この手法では、今までのように原子間ポテンシャルをもとに解析的に熱膨張率を計算するのではなく、多数の有限温度でのMD計算のスナップショットに対して第一原理計算を行うことで統計的な取り扱いを行っている。第一原理計算の併用により、実験結果へフィッティングを行う必要があった従来の手法とは異なり、線膨張係数を直接算出することが可能となった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、今までに確立した原子間ポテンシャルフィッティングの手法をもとに、よりロバストで表現力のある原子間ポテンシャルの関数形の策定を目指す。この際、従来の原子間ポテンシャルフィッティングのプロセスを機械学習の観点から捉え直すことで、局所解に陥りにくい、よりフィッティングの容易な関数形について考察を行う。また、より大規模なデータに対してのフィッティングを行うため、学習データの効率的な選定手法について考察を行う。 また、原子間ポテンシャルの適用先として、SiCの熱酸化に着目する。面方位による顕著な界面物性の違いを生み出す素過程の解明を行う。また、界面におけるCクラスタの振る舞いについて、実験結果との比較を行う。
|