研究実績の概要 |
本研究は,近代日本語の特徴とされる漢語の多様性に着目し,大規模言語データベース(コーパス)の網羅的調査分析に基づいて,近代(明治・大正)と現代(平成)における漢語の使用実態とその変化について計量的・実証的に分析を行い,言語変化のメカニズムを解明しようとするものである. 29年度は,近代語のコーパス(約1250万語)を用いて漢語の網羅的抽出を行い,既に28年度実施済みであった現代語のコーパスに基づく漢語の使用実態調査と対照することで,近・現代間の漢語語彙の異同,使用頻度の変化等を明らかにした.内容をまとめた論文は査読付き論文誌に掲載された. 更に,上記の時代間語彙比較を通して明らかになった両時代の共通漢語語彙から使用頻度の高い約2,000語を選び,表記のバリエーション(同じ語における多様な表記形式.例:「記念」に対する「記念」と「紀念」)や用法のバリエーション(同じ語における多様な用法.例:「貴重」に対する形容詞用法「貴重な」と動詞用法「貴重する」)について網羅的に調査を行い,近・現代間での異同や変化を明らかにした.表記バリエーションの変化に関しては,資料・媒体差を検討するため,既存のコーパスでは不足する部分について独自でコーパスを作成した.内容を研究会・学会等で発表し,漢語の用法変化に関する発表は優秀発表賞に選ばれ,独自の近代新聞コーパス構築に関する発表では,異分野(特に情報学分野)との交流を図った. 研究結果から,近代から現代にかけての漢語の様々な変化が多様性を失い画一化する方向性を持ち,変化要因は言語の経済性や社会の近代化によるものであると結論付け,研究成果を博士論文にまとめ,博士号を授与された. 漢語語彙とその表記・用法について,ここまで大規模で網羅的な時代比較を行い,その実態と変化を実証的に明らかにした研究は,これまでにない試みである点で意義あるものと考える.
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