研究実績の概要 |
近年、新薬創出に要求されるハードルは上がり続け、投じられる費用に対して開発成功率は減少の一途を辿っている。合成化学の立場からこの問題を解決するには、これまで展開困難であった医薬リード骨格を迅速に供給可能にする新規反応形式の開発が必要となる。中でも炭素-水素(C-H)結合のような有機分子に遍在する官能基を標的とした変換反応は、複雑化合物の短工程合成および医薬品等のlate-stage官能基化の実現に直結する考え方として、近年注目を集めている。しかし、数多くの研究がなされているにもかかわらず、達成されているC-H変換反応は配向基近傍に限られ、遠隔位選択的な反応例は少ない。本研究では、従来法では困難であった、芳香族化合物のパラ位選択的なC-H変換反応、およびピペリジンなどの脂肪族環状アミン遠隔位C(sp3)-H変換反応を、基質と配位子間でのルイス酸-塩基相互作用を利用することで達成することを目的とした。一昨年度に当初の予想に反して、配位子に組み込んだ二座配向基部位が機能しないという問題に直面し、新規でより強力な二座配向基骨格のデザインおよび合成を行った。結果、電子供与性が高い新規ピコリン酸アミド骨格の創出に成功し、パラジウム/ピコリン酸アミド触媒存在下、アルデヒドとハロゲン化アリールからケトンが生成することを見出した。昨年度はさらにピコリン酸アミド骨格をチューニングすることで、従来法では合成が困難なヘテロアリールケトンやビスヘテロアリールケトンの合成にも成功している。本研究では、計算化学を用いた反応機構解析なども行い、2018年3月にACS Catal.誌に掲載された (ACS Catal, 2018, 8, 3123.)。本年度以降、ルイス酸塩基相互作用部位に焦点を当て、目的である遠隔位選択的なC-H結合変換反応に取り組む予定である。
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