研究課題/領域番号 |
16J08909
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宮地 真路 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | AdS/CFT対応 / テンソルネットワーク / 経路積分 / 情報計量 |
研究実績の概要 |
本年度執筆者は、AdS/CFT対応の原理を理解するために、AdS/CFT対応のいくつかの性質を調べ、それらを解明した。 まず執筆者は、AdS/CFT対応における、重力理論での局所的な励起の時間発展を調べた。そしてAdS上のスカラー場の場合、AdS境界で同時に一様なビームを発射すると、AdSの中心点で集まって局所的な励起となり、再びAdS境界に一様なビームとして戻ることを確認し、さらにこの時因果律が保たれていることを確かめた。局所的な励起は発散したエネルギーを持つため、この研究はAdS/CFT対応を用いた、摂動的な物質場の時間発展を追った数少ない研究の一つである。 次に執筆者はAdS/CFT対応とカオスの関係について、量子情報論的な量の一つであるFisher情報計量と呼ばれる量を用いて調べた。結果として、近年AdS/CFT対応との関係が盛んに議論されている量子カオスと、系の系へのノイズに対する鋭敏性とが等価であることが示された。そしてこのことを、Fisher情報計量の重力双対を用いて、重力理論側でも確認した。この研究は量子カオスをバタフライ効果から特徴付けた研究である。 そして最後に執筆者は、実繰り込み群の一つであるテンソルネットワークを、経路積分を用いて表す方法を開発した。テンソルネットワークはAdS/CFT対応の重力側での時空を表していると考えられており、その理解はAdS/CFT対応の仕組みの理解に繋がる可能性がある。そのため、テンソルネットワーク自体のより良い理解が求められている。しかしながら、テンソルネットワークの連続極限は、これまで自由場以外explicitな記述が存在していなかった。本研究はその初めてのものである。この研究によって、テンソルネットワークと重力の関係性についての研究が、より促進されると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度執筆者は、AdS/CFT対応の原理をテンソルネットワークから理解するために、テンソルネットワークの経路積分による表示を発見した。本研究以前のテンソルネットワークの連続極限では、演算子と状態を直接扱っていたため、経路積分を通して定式化されているAdS/CFT対応と比較することが困難であった。また、テンソルネットワーク自体、相互作用のある系での表示が存在していなかった。本研究によって、相互作用のある系のテンソルネットワークを扱えるようになり、さらにAdS/CFT対応とテンソルネットワークとを直接比較することができるようになった。 一方でアインシュタイン方程式のテンソルネットワークからの導出であるが、現在進行中の執筆者の研究によると、テンソルネットワークの複雑性が最小になるという条件を課すことで、時間依存性の無い三次元時空に関しては導くことが出来ることが明らかになっている。 以上の進展から、AdS/CFT対応をテンソルネットワークから導出するという本研究の目標は、今年度十分に進捗したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
現在進行中の執筆者の研究では、テンソルネットワークの複雑性が最小になるという条件を課すことで、時間依存性の無い三次元時空に関してはアインシュタイン方程式を導くことが出来ている。しかしながら、これまでの研究では、このようなテンソルネットワークと時空との対応は、時間依存性のない、三次元古典時空に限られてる。このため今後の研究では、時間依存性がある場合・高次元の場合の研究と、時空を量子的に扱う研究を行う。 まず時間依存性がある場合の研究は、時空に埋め込まれた曲面に対応するテンソルネットワークの複雑性が、どのような性質を満たすべきか明らかにする必要がある。従ってこの性質について研究を進める。 また、時空の量子化の研究においては、重力理論の分配関数が、テンソルネットワークの複雑性からどのように導かれるか明らかにする必要がある。従ってこの導出について研究を行う。
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