本年度執筆者は、AdS/CFT対応の原理を理解するために、AdS/CFT対応と量子情報理論との関係について研究を行なった。まず執筆者は前年度に開発した、実繰り込み群の一つであるテンソルネットワークを経路積分を用いて表す方法を共形対称性が存在しない場合へと拡張した。さらに執筆者は、前年度に開発した、テンソルネットワークと対応すると考えられているAdS時空中のコーシー面上の計量をテンソルネットワーク側の量によって表す予想が、この一般の場合にも成立することを確かめた。 また執筆者は量子エンタングルメントを測る量であり、直接計算が難しいEntanglement of Purificationをテンソルネットワークの観点から研究した。執筆者はEntanglement of Purificationの重力双対量が、以上で開発されたテンソルネットワークの経路積分表示を用いて自然に計算される量と部分的に一致していることを示した。この結果は、Entanglement of Purificationと似た量をCFTで比較的簡単に計算できる形で定義できたことを意味する。 また執筆者はAdS時空に非局所相互作用を入れ、それが時空の動力学にどのような影響を与えるか調べた。特に因果律に対応するAveraged Null Energy Conditionと呼ばれる関係式がどのように破れるのか、定量的に調べた。このような時間発展は、量子情報において現れる量子操作に対応している。 本年度の執筆者の研究により、テンソルネットワークとAdS時空との関係がより明らかになった。また、AdS時空とCFT側の量子もつれについて、Entanglement of Purificationと非局所相互作用の二つの観点から理解を深めた。以上の進展から、AdS/CFT対応を量子情報から理解するという本研究の目標は、今年度十分に進捗したと言える。
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