研究実績の概要 |
有機分子触媒による無極性σ結合の活性化と、これに基づく特徴ある分子変換反応の創出を目的として研究を行っている。平成28年度は、交付申請書研究実施計画に記載した、研究項目①「4,4’-ビピリジン触媒の高性能化」を実施した。多置換ピラジンのジホウ素化における、4,4’-ビピリジン骨格およびピリジン骨格を有する有機分子の触媒効率を検討した。平面性を付与したビピリジンは触媒効率が低く、中間体構造が安定になりすぎるのは有効ではないことが示唆された。一方、シアノ基やピリミジル基を4位に有するピリジンでは高い触媒効率が達成でき、電子求引性置換基が置換した構造や多窒素含有芳香環構造が効果的であることを見出した。また、触媒反応の中間生成物の構造について、理論計算および分光学的手法による検討を行った。その結果、4,4’-ビピリジンによりジボロンのホウ素-ホウ素σ結合の均等開裂が進行し、ラジカル種が生成することを明らかとした。以上の知見から、ラジカル種の安定性と反応性の均衡をとる触媒構造が効果的であると考察できる。 上記の知見を基に、有機触媒により活性化可能な含ホウ素σ結合について検討を進めた結果、ピリジン誘導体によりシリルボランのケイ素-ホウ素結合が触媒的に活性化できることを見出し、これを鍵とするアルキンの触媒的シリルホウ素化を明らかとした。以上の成果は、従来遷移金属で行われてきた結合活性化を有機分子で実現するための有益な基盤的知見であり、有機分子触媒を用いる分子変換の更なる発展に資すると考えられる。
|