研究課題/領域番号 |
16J08955
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野崎 友成 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 倍数性 / 卵巣発達 / 脂肪体 / 繁殖力 / 単為生殖 / シロアリ / 社会性昆虫 |
研究実績の概要 |
社会性昆虫の一つであるシロアリの高い繁殖能力がどのように進化してきたのか、またそれを支える至近的なメカニズムがどのようなものなのかを明らかにすることが本研究の目的である。本研究では、代謝活性が高く、多機能な組織である脂肪体の倍数性に着目している。これまで、繁殖個体と非繁殖個体で倍数性のパターンが質的に異なり、繁殖する個体は倍数性が非常に高く、非繁殖個体では低いことが分かっていた。本年度は日本に広く分布するヤマトシロアリのさまざまな状態のメス繁殖虫を用いて、脂肪体組織の倍数化度合と繁殖力(卵巣発達や生重量など)との関連性を調べた。また、個体が大量の産卵経験後に生じる卵巣の着色を観察し、脂肪体の倍数化と大量産卵の前後関係を調べた。その結果、脂肪体の倍数性と卵巣発達には正の相関がみられた。ただし、季節や生重量の効果は検出されなかった。以上のことから、状況証拠としては脂肪体の倍数化は卵巣発達に伴って生じ、発生上不可逆的であると結論づけられる。以上のことは、昆虫で脂肪体の倍数化と卵巣発達の関係性を示した初めての研究例である。 ヤマトシロアリをはじめとするいくつかのシロアリでは、単為生殖を状況依存的に用いることで、近親交配のコストを負わずにコロニーとしての増殖力を高めている。そのような種では、労働個体や分散個体は有性生殖によって生産される一方で、補充生殖虫は単為生殖によって生産されている。今回、ヤマトシロアリと同属、かつ単為生殖能力の極めて低いオキナワヤマトシロアリで偶発的な単為生殖が生じた場合、その子どもは繁殖虫へと成長しやすいことが判明した。このことは、ヤマトシロアリ属では単為生殖能力を獲得した場合、すみやかに単為生殖による女王継承システムが進化しうることを示唆しており、この複雑な繁殖システムは非常にシンプルな過程を経て生じた可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1年目の計画として順調あったと言える。具体的には、シロアリ女王の繁殖能力のうち、特に卵巣の発達と関連して脂肪体の倍数性が上昇することが分かった。これは脂肪体の倍数性が上昇することの機能を解明するうえで非常に重要で、今後の分子レベルでの研究を進めるための糸口を発見したといえる。また、上記の研究の結果、実験室内で脂肪体の倍数性上昇が再現可能であると判明したことも大きな成果である。さらに、当初の計画では予定していなかった結果として、シロアリの単為生殖を用いた女王継承システムの進化プロセスに関する知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
シロアリ繁殖虫特異的な脂肪体の倍数性上昇の生理機能を考察する。シロアリの脂肪体における遺伝子発現を調べることにより、脂肪体組織の個体内での機能を調べる。昆虫脂肪体は極めて多くの機能を有するが、この結果によって具体的な着眼点を得ることができるだろう。 同時並行で、シロアリの繁殖分業の発達と脂肪体の倍数性上昇の進化的な関係を明らかにする。シロアリ下目の祖先的な種から派生的な種に対して、繁殖個体、非繁殖個体それぞれの脂肪体の倍化レベルを測定し、比較する。
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