本研究は、人間の経済活動および生態系において重要な位置を占める社会性昆虫:シロアリの女王が示す高い繁殖能力の生理学的基盤とその進化を解明することを最終目標としていた。本年度は特別研究員DC1の最終年度であり、これまでの知見から脂肪体の倍数性と遺伝子発現の関係を探った。また複数のシロアリ種の情報から、繁殖力と脂肪体の倍数化度合の関係を明らかにした。 セルソータ―を用い、脂肪体細胞を裸核した状態で倍数性ごとに分取することに成功した。しかし、核内のmRNA量は極めて少なく、安定した遺伝子発現解析は困難であった。今後有効と考えられる細胞の直接観察による倍数性と遺伝子発現の同時定量系のための条件検討を行った。 一方で、脂肪体の倍数化とシロアリ女王における高い繁殖力との進化的関係を示すことに成功した。日本に生息するシロアリ6種(ネバダオオシロアリ、シュワルツカンザイシロアリ、コウシュンシロアリ、ヤマトシロアリ、イエシロアリ、タカサゴシロアリ)に対し、雌雄の繁殖虫および非繁殖虫の脂肪体の倍数性を測定した。結果として、対象となった種全てにおいて女王の脂肪体は非繁殖個体のものよりも高度な倍数化を示すことが分かった。雄に関しては、脂肪体の倍数化パターンには一貫した傾向は認められなかった。また、同種のワーカーの倍数化レベルによって補正した女王の脂肪体の倍数化レベルを比較したところ、祖先的で繁殖力の低い女王よりも、派生的で繁殖力の高い女王の方が高い倍数化レベルを示した。この内容について、現在論文化に向け準備中である。 本年度、シロアリの部位特異的な遺伝子発現解析を行った研究、シロアリの地理的単為生殖に関する研究、外来シロアリモドキの侵入の報告論文が国際学術誌に掲載された。また、ブラジルで開催された国際社会性昆虫学会にて、昨年度論文として出版した成果に関する発表を行った。
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