研究課題/領域番号 |
16J09080
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
林 寧生 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
キーワード | 光ファイバ / ブリルアン散乱 |
研究実績の概要 |
今年度の方針として、ポリマー光ファイバ(POF)中の前方ブリルアン散乱光(FBS)の観測とそのセンシング応用についての検討を掲げた。POF中のFBSの観測において、まずFBS自体の特性が未解明点があるため、これを低損失で散乱信号の観測が容易なガラス光ファイバを用いて解明した。3つの点からその解明研究を行った。 一つ目は、被覆を除去したマルチコア光ファイバ中のセンターコア中のFBSとサイドコア中のFBSを初観測し、その特性解明を行った。この結果は、今後のポリマーで構成されたマルチコア光ファイバ中の非線形現象解明の礎となる。 二つ目は、光ファイバの一部の被覆除去によるFBSスペクトルの線幅制御方法の解明である。被覆の除去量により線幅の制御可能であることを示した。これは、将来、FSBを用いたファイバレーザーの制御方法として便利である。 三つ目は、光ファイバ中の後方誘導ブリルアン散乱光(BSBS)をシードとして用いた多段前方ブリルアン散乱光(CFBS)の観測とセンシング特性解明である。従来、CFBSを発生させるには、同方向からポンプ光とプローブ光を入射する必要があった。この手法であると分布測定手法の適応が困難である。我々は、ポンプ光とプローブ光を対向伝搬させることでCFBSを発生させる手法を提案し、実証した。CFBSはFBSよりも信号対雑音比が大きく、ファイバレーザーや光ファイバセンシングに適する。また、CFBSと光相関領域法を用いて従来不可能であった“音響インピーダンスの分布測定”も実証した。これは、光ファイバ分布センシングに新たな測定物理量を追加を示す非常に重要な結果である。 さらに、東京工業大学の中村健太郎教授との共同研究により、POFのブリルアン散乱光スペクトルの圧力依存性を解明した。これは、POFを用いたブリルアンファイバレーザーの中心周波数設定(BFSの変化に依存)に貢献する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
光ファイバ中の前方ブリルアン散乱光(FBS)自体の特性が未解明点があるため、これを低損失で散乱信号の観測が容易なガラス光ファイバを用いて解明した。3つの点からその解明した。 一つ目は、被覆を除去したマルチコア光ファイバ中のセンターコア中のFBSとサイドコア中のFBSを初観測し、その特性解明を行った。これらのスペクトルの差は、マルチコアファイバのサイドコア位置の非対称性に起因する。この結果は、今後のポリマーで構成されたマルチコア光ファイバ中の非線形現象解明の礎となる。 二つ目は、光ファイバの一部の被覆除去によるFBSスペクトルの線幅制御方法の解明である。光ファイバには通常ポリマー被覆が施されている。この被覆は径方向の音響波を減衰させFBSのスペクトルを広げる。そこで、我々は、光ファイバの円周上の被覆の一部を除去し、FBSスペクトルの線幅を測定した。線幅は、除去した被覆の中心からの角度に比例する。これは、被覆の除去量により制御可能であることを示す。これは、将来、FSBを用いたファイバレーザーの制御方法として便利である。 三つ目は、光ファイバ中の後方誘導ブリルアン散乱光(BSBS)をシードとして用いた多段前方ブリルアン散乱光(CFBS)の観測とセンシング特性解明である。我々は、ポンプ光とプローブ光を対向伝搬させることでCFBSを発生させる手法を提案し、実証した。CFBSはFBSよりも信号対雑音比が大きく、ファイバレーザーや光ファイバセンシングに適する。また、“音響インピーダンスの分布測定”も実証した。これは、光ファイバ分布センシングに新たな測定物理量を追加を示す非常に重要な結果である。 さらに、ポリマー光ファイバ(POF)中のブリルアン散乱光スペクトルの圧力依存性を解明した。これらの基礎的な成果は、今後POFを用いた光デバイス開発に飛躍的な進歩をもたらすことが期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
基本方針としては、プラスチック光ファイバ(POF)中のラマン散乱光の特性評価を行う。主に波長可変素子を購入し、下記実験を行う。はじめに、連続光、パルス光、波長可変素子を用いて生成した短波長帯の光を用いてPOF中のラマン散乱を観測する。市販のPOFはポリメチルメタクリレート(PMMA-)POFと全フッ素化屈折率傾斜型(PFGI-)POFに大別される。PMMA-POFのコアはポリメチルメタクリレートで構成されており、透過波長帯は650 nm、最低損失波長帯は532 umであるである。PMMA-POF中のラマン散乱は既に観測されており、ラマンシフト量は最大で3000 cm-1 (400 cm-1@シリカ)である。一方、PFGI-POFのコアは全フッ素化ポリマーで構成されており、透過波長帯は1550 nm、最低損失波長帯は1000 umである。そのため、通信波長帯のデバイスが使用できるという利点がある。また、フッ素化されているためフィルム状の全フッ素化ファイバのラマン散乱シフトは1500cm-1および1600 cm-1に大きなピークが出現する。これらの情報を手掛かりにPFGI-POF中のラマン散乱の観測に挑戦する。次に、 そのラマン散乱特性を3つの観点から解析する。ラマンスペクトル(ラマンシフト量を測定し、文献と照らし合わせる)、ラマンピークパワーの入射光パワー依存性、ラマンピークパワーの温度依存性。最後に、PO Fを用いたラマン増幅器を実現する。なお、追加で、POF中の径方向のブリルアン散乱の観測とそれを用いた光ファイバレーザーの動作実証も試みる。
|