研究課題/領域番号 |
16J09150
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田尻 武義 東京大学, 生産技術研究所, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 三次元フォトニック結晶 / 光の角運動量 / マイクロマニピュレーション / スピン量子情報 |
研究実績の概要 |
本研究では、角運動量を持つ光の制御を三次元フォトニック結晶(3D PC)構造により実現し、電子などのスピン量子状態を制御できる量子円偏光回路へと応用することを目的としている。そのために、3D PC作製法の一つ「マイクロマニピュレーション法」に着目し、その実現を目指している。本手法は、二次元的パターンが形成されたプレートを遠隔で操作・積層し、3D PC構造を作製する。プレートとパターンは電子線リソグラフィ法を用いて作製し、マニピュレータと顕微鏡を組み合わせた装置を用いて一枚ずつ積層する。これまで原子と同様の振る舞いをする半導体量子ドットをプレートの一枚に導入し、量子ドットをゲインとする微小共振器レーザーの実現に成功するなどの成果を上げている。しかしながら、光回路の導入には3D PC構造のサイズが小さいため、本手法ではその実現が困難となっている。
昨年度では、上記課題を解決するために、マイクロマニピュレーション法を用いて、これまでより大型の3D PC構造形成技術の開発を行なった。自身が提案した「プレート差込型積層方式」を用いて、層数が61層の3D PC構造の作製に成功した。これは層数が2倍程度向上できたことに相当しており、本方式を用いることで層数を大幅に向上できることを実証したものと考えている。この技術を応用し、量子ドットをゲインとする微小共振器レーザーと直線偏光導波路の同時集積化に成功した。今後、導波路構造に螺旋対称性を与えることで、円偏光回路への応用が可能になると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
マイクロマニピュレーション法により作製可能な三次元フォトニック結晶構造の寸法を、大幅に大型化することに成功している。「プレート差込型積層方式」を用いて実現した三次元フォトニック結晶構造は、計61層からなる多積層な構造となっている。これは、当初計画していた層数を大きく上回っており、計画以上の進展となっている。 本技術を応用し、微小共振器レーザーと三次元的光導波路を三次元フォトニック結晶中に集積することに成功した。レーザーの利得媒体として、原子と同様の振る舞いをする量子ドットが用いられている。これは原子の電子スピン制御を目標とする本研究においては重要である。本成果は、上述した三次元フォトニック結晶構造の大型化に成功したことで、初めて実現できた成果となっており、予想以上の進展となっている。 いずれも、本研究が目指す円偏光量子回路の基礎となる重要な成果であり、その成果は、アメリカの権威ある国際会議にて口頭発表に採択されるに至っている。 以上の理由から、予想以上の進展と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、円偏光量子回路の実現に向けて、その基本素子構造を研究し、量子情報処理へと応用することを目指す。 基本素子の研究では、三次元フォトニック結晶中に螺旋結晶欠陥を導入した構造における光の振る舞いを調べる。時間領域差分法などを用いた数値解析により、円偏光導波路を初めとする円偏光素子がマイクロマニピュレーション法により作製可能であるか調べる。動作を確認した素子に対しては、原理実証実験も進める予定である。 また、並行して量子情報処理を実現するための具体的な検討を進める。スピン量子状態の転写等の量子情報処理に応用できる物理現象を光学実験を通して実証するため、具体的な円偏光回路構成を検討する。上記、基本素子の研究との進捗に応じて、実験実証を進める予定である。量子情報処理に応用できる物理現象の検討には、必要に応じて外部研究室と交流しながら進めることも検討している。
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