【研究背景】三次元フォトニック結晶(3D PC)は、光波長程度の屈折率周期性を三次元的に材料に与えることで、偏光状態によらない全方位光禁制帯を実現した人工構造である。結晶欠陥を人工的に導入することで集積光回路への応用が可能となる。3D PC構造は、構造の三次元性から螺旋状の欠陥構造を導入することができ、円偏光などの角運動量を有する光の導波など高度な光制御が可能となる。
【研究目的・手法・課題】本研究では、角運動量を有する光を3D PCを用いて制御することによって、電子のスピン量子状態と結合した光回路「量子円偏光回路」への応用を目的としている。作製手法として、原子と同様の振る舞いをする半導体量子ドットを3D PC構造中に導入できる「マイクロマニピュレーション法」に着目しており、昨年度は、3D PCに集積された最初の集積光回路の実験実証に成功している。
【研究成果概要】本年度は、同手法を用いて作製可能な円偏光量子回路の回路素子の検討を行うと共に、光量子回路の3D PC構造中への実装方法を検討した。回路素子として、作製可能なストライプ積層型3D PC構造中に形成された螺旋欠陥光導波路を検討し、量子ドットが空間的にランダムに分布していても、電子スピンから光へ量子状態を転写できることを数値解析によって示した。光量子回路の実装方法に関しては、新たに「コヒーレントフィードバック方式」の概念を取り入れることを検討した。本方式は、制御する対象にフィードバックを施すだけの簡易な光回路で量子演算を実現する量子演算の実装方法である。オーストラリアの研究室と共同で、スクイーズ演算に関して、コヒーレントフィードバックにより演算損失の低減効果があることを数値解析によって示した。これは、螺旋欠陥光導波路を介したフィードバックを量子ドットに施すことで、様々な量子演算の実装に応用できると考えている。
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