研究課題/領域番号 |
16J09152
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三浦 飛鳥 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 熱電変換 / フォノンドラッグ効果 / 熱伝導 / ナノ構造 / ゼーベック効果 / スピンゼーベック効果 |
研究実績の概要 |
基礎材料をシリコン(Si)として,平均粒径50 μmの多結晶Siを作製し,80 Kから300 Kまでの温度域で単結晶シリコンの熱伝導率およびゼーベック係数の温度依存性と比較した.多結晶化により熱伝導率およびゼーベック係数は全温度域で単結晶に比べ低減した.モデルを用いた電子およびフォノン輸送に関するボルツマン輸送方程式の計算を行った結果,結晶粒界の増加により平均自由行程の長いフォノンの散乱頻度が増加したため熱伝導率およびフォノンドラッグ項が低下したと同定した.一方,電子拡散項はフォノンドラッグ項に比べ変化が小さかった.また,モデル計算により同定した累積熱伝導率およびフォノンドラッグの比較により熱伝導に寄与するフォノンはフォノンドラッグに寄与するものより平均自由行程が短いことが分かった. また,基礎材料をイットリウム鉄ガーネット(YIG)として,平均粒径が2.25 μmおよび0.55 μmであるバルク焼結体を作製し,単結晶および平均粒径が20.0 μmである市販多結晶体の熱伝導率およびスピンゼーベック起電力を比較した.ナノ構造化により熱伝導率およびスピンゼーベック起電力ともに単結晶に比べ低下したが,低減率はスピンゼーベック起電力の方が大きかった.これはスピンゼーベック効果に寄与するマグノンおよびフォノンの輸送特性長が熱伝導に寄与するフォノンに比べ長いためと考えられる.この結論は,スピンゼーベック起電力および低温での熱伝導率の磁場依存性の測定結果から導かれるものと一致していた.また,単結晶の場合熱伝導率とスピンゼーベック起電力には強い正の相関があることが確認されたが,適切なナノ構造化により熱伝導率とスピンゼーベック起電力の相関を弱めることができることが分かった.このため,ナノ構造化を用いて熱伝導率とスピンゼーベック起電力を独立に制御し熱電変換効率を向上できる可能性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,基礎材料としてSiおよびYIGを用いて熱伝導率およびフォノンドラッグ効果に寄与するフォノンの理解しフォノンドラッグによるゼーベック係数増大とナノ構造化による熱伝導率低減効果を両立可能なナノ構造の実現を行う計画であった.まず,熱伝導率およびフォノンドラッグ効果に寄与するフォノンの理解に関しては,熱伝導率およびゼーベック係数の温度依存性の粒径依存性からおおむね達成できている.一方,フォノンドラッグによるゼーベック係数増大とナノ構造化による熱伝導率低減効果を両立可能なナノ構造の実現に関しては,熱伝導率とゼーベック係数が持つ正の相関を弱める構造の作製には成功したが熱電変換性能の向上には至っていない.
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今後の研究の推進方策 |
フォノンドラッグのゼーベック係数増大効果を用いて熱電変換性能を向上するためには熱伝導に寄与する高周波数フォノンのみを効率よく散乱させる必要がある.そのための手法として合金構造を作製する手法が考えられる.SiおよびYIGに対して合金構造を作製する場合それぞれゲルマニウム(Ge)およびビスマス鉄ガーネット(Bi3Fe5O12)が一般的に用いられている.今後はSiGeやBi置換型YIGの熱伝導率およびゼーベック係数の温度依存性の測定およびモデル計算を用いてフォノンドラッグ効果の理解およびフォノンドラッグを用いた熱電変換性能の向上を行う. また,熱伝導に寄与する高周波数フォノンを散乱する手法としてナノ粒子を埋め込んだ構造を作製する手法が考えられる.それに加えフォノンドラッグの効果を高めるためには,高いキャリア・フォノン相互作用と高い結晶性(フォノンの長寿命化)を両立させればよく,材料の候補は半導体結晶材料に強相関ナノ材料を埋め込んだ系や,強相関熱電材料に半導体ナノ結晶を埋め込んだ系である.ナノ構造化した母体材料に別物質を埋め込んだハイブリット構造の作製と熱電特性の評価を行い,熱電変換性能の向上を目指す.
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