研究課題/領域番号 |
16J09198
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤森 詩織 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | ゲルマニウム / スズ / 芳香族化合物 / フェニルアニオン / 高周期14族元素 |
研究実績の概要 |
ベンゼンに代表される芳香族化合物は、身の回りで広く利用されている重要な化合物群である。このベンゼンの骨格炭素を同族の高周期元素に置き換えた重いベンゼンは、電子材料への展開等の観点から興味がもたれている。しかし、これらの化学種は高反応性で、自己多量化が進行してしまうという問題点がある。その安定化法としてかさ高い置換基を用いた立体保護が有効である。しかし、かさ高い置換基の存在がその機能性材料への展開等のさらなる応用を制限していた。そこで本研究では、新たな手法として電荷反発によりその多量化反応を抑制できると考えた。 既に我々は、ゲルマニウム上にかさ高いアリール基を有するゲルマベンゼンを合成・単離することに成功している。今回、これを各種金属試薬で還元することにより、フェニルアニオンのゲルマニウム類縁体を合成・単離し、その構造を明らかにした。種々検討した結果、このアニオン種は環状共役構造と二価化学種としての性質を有することが明らかとなった。このことから、このアニオン種は、フェニルリチウムやグリニャール試剤のような求核反応に加え、挿入反応という形でも、他の有機骨格へ導入可能なビルディングブロックとして機能することが期待される。本研究は、Angewandte Chemie誌にVery Important Paperとして取り上げられ、Inside Coverに選出された。また、この手法を応用することで、中心元素としてスズを有するフェニルアニオン類縁体の合成・単離にも成功している。 反応性の面からもこれらの性質を解明することを目的とし、反応性の検討を行った。求電子剤および遷移金属錯体との反応から、このアニオン種が、芳香族性および二価化学種としての性質の両方を有することが示唆された。また、ゲルマベンゼニルアニオンは他骨格へのゲルマベンゼン骨格導入試剤として利用可能であることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の1年目の計画では、1-Tbt-2-t-Bu-ゲルマベンゼンの系で合成・単離が成功している手法を用いることで、フェニルアニオンの高周期元素(ケイ素・ゲルマニウム・スズ)類縁体である「重いフェニルアニオン」の合成・単離・性質解明を達成する予定であった。ゲルマニウムの系に関して、各種還元剤を検討したところ、対カチオンとしては、カリウムのみならず、リチウム、ナトリウムを有する「重いフェニルアニオン」を合成することに成功した。また、中心元素を替える試みとして、まずスズの系を検討した。合成法に関しては、1-Tbt-2-t-Bu-スタンナベンゼンは、室温では二量化することが分かっているため、この二量体を還元することで対応する「重いフェニルアニオン」の合成・単離を試みる計画であった。そして、実際にこの手法を検討した結果、目的物であるフェニルアニオンのスズ類縁体を合成・単離することに成功した。また、各種スペクトル測定、構造的特徴、理論計算の結果から、この「重いフェニルアニオン」が芳香族性とスタンニレンとしての性質の両方を併せ持つことを明らかにした。さらに、ゲルマニウムの系では、「重いフェニルアニオン」といくつかの基質との反応を検討した。種々の検討により、このアニオン種は、芳香族性および二価化学種としての性質の両方を有することが示唆された。また、これらの結果から、このフェニルアニオンのゲルマニウム類縁体は他骨格へのゲルマベンゼン骨格導入試剤として利用可能であることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、フェニルアニオンの高周期14族元素類縁体である「重いフェニルアニオン」の合成・単離、性質解明を目指してきた。そしてこれまでに、対カチオンとしてリチウム、ナトリウム、カリウムを有するアニオン種、また、中心元素としてゲルマニウム、スズを有するアニオン種を合成・単離することに成功している。当初の予定では、中心元素としてケイ素を有する「重いフェニルアニオン」の合成も目指す予定であったが、現在のところ検討できていない。そこで、次年度では、ケイ素の系にも取り組む。具体的な方法としては、これまでに得られた知見をもとに、ケイ素上にかさ高い置換基であるTbt基、o位にt-Bu基を有する、ベンゼンのケイ素類縁体を各種還元剤により還元することで、対応する「重いフェニルアニオン」の合成を試みる。 得られた化合物についてそれぞれX線結晶構造解析・各種スペクトル測定を用いてその構造・電子状態を解明する。さらに、それぞれの反応性を検討することで、反応性からも「重いフェニルアニオン」の性質について明らかとする。また、当初の計画に従い、「重いフェニルアニオン」の別途合成法も検討する。現在、「重いフェニルアニオン」の合成には、かさ高い置換基を有する「重いベンゼン」を前駆体に用いている。より汎用性を高め、この分野の研究を発展させるためには、「重いフェニルアニオン」または「重いアリールアニオン種」の簡便かつ高効率な別途合成法を開発する必要がある。これが達成されれば、「重い芳香族化合物」の化学が汎用的なものとなり、典型元素化学のみならず、機能・物性化学、物理化学といった様々な分野への展開が期待され、新たな材料開発が実現可能になると考えている。
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