これまでの研究からベンゼン骨格を有する「重いフェニルアニオン」は、環状共役構造とともに二価化学種としての性質を有することを明らかとした。そこで次に、ベンゼン骨格の系よりも共役が広がることにより、二価化学種としての性質が強く発現することが予想されるアントラセン骨格での検討を行った。ゲルマニウム上にかさ高いアリール基(Ar)を有する重いアントラセンに対し、還元剤を作用させることにより、重いアンスリルアニオンの三量体であるトリアニオンが得られた。X線結晶構造解析および理論計算の結果から、得られたトリアニオンは、一分子に「1つのゲルミルアニオン」と「2つの非局在化アニオン」という異なる二種類のアニオンを含んだユニークな形式のトリアニオンであることが明らかとなった。このトリアニオンの生成は、中間体として重いアンスリルアニオンが発生していることを示唆しており、ベンゼン骨格からアントラセン骨格へ共役が広がったことにより二価化学種としての性質がより強く発現した結果、三量体であるトリアニオンが得られたものと考えている。この結果は、アニオン種の性質をチューニングすることに成功したことを示唆しており、重要な成果である。
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