研究実施者らは、クモ毒由来の膜傷害性ペプチドを改変し、エンドソーム不安定化ペプチドL17Eを開発した。L17Eを用いることで、通常エンドサイトーシス機構により細胞内に取り込まれ、エンドソームに捕捉される細胞外分子をサイトゾルに移行させることが可能である。本研究では、エンドソーム不安定化ペプチドの活性向上のための指針を得ることを目的とし、L17Eの作用機序解明に取り組んだ。L17Eには、マクロピノサイトーシスを誘導する・負電荷脂質に選択的に作用するという類似のエンドソーム不安定化分子には見られない性質を有する。これらの性質が細胞のどの点でどのように作用し、高分子の細胞内送達を実現しているかを明らかにすることを目指した。 高分子の細胞質内への送達を評価するために、高分子薬物モデルとして蛍光標識デキストラン(10kDa)を用いた。L17Eと共にデキストランを細胞に投与すると、デキストランがサイトゾルに移行する。このサイトゾルへの放出は、低温条件、ATP欠乏条件では認められないことから、エネルギー依存的なエンドサイトーシス経路を介していることが示唆された。時間依存性・エンドソームの成熟化および酸性化の関与を検討したところ、エンドソームの成熟化が進行する以前の比較的短い時間でサイトゾル放出が起こることが明らかとなった。さらに、マクロピノサイトーシスの誘導過程であるラッフリングが関与することを示唆する結果が得られた。これらに加えて、L17E処理によって細胞膜が撹乱され、一時的な細胞膜透過が起こる可能性が示唆された。細胞膜の攪乱はエネルギー依存的であり、ラッフリングの誘導が必要である可能性が考えられた。以上の結果はリソソーム分解系への移行を回避した、細胞膜上でのサイトゾルへの導入の可能性を示唆しており、細胞内送達法の開発に新たな概念を与えるものだと期待できる。
|