現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究成果として,平面型パラジウム四核構造および四面体型白金-金四核構造を有する種々の複核錯体の合成に成功した.これらの複核錯体は前例のない構造を有しており,その化学的性質および反応性といった観点から極めて興味深い化学種であると言える. 平面型パラジウム四核錯体については,当初の目的の通りヒドリド配位子を有するカチオン性錯体の合成と単離,X線結晶構造解析や温度可変NMRによる同定とキャラクタリゼーションを達成した.その反応性については,生成した錯体の不安定性により多くを明らかにすることができなかったが,1級シラン化合物との反応において特異的な配位子交換と付加反応が進行するという予備的な知見を得ることができた. 新たな研究課題として取り組んだ架橋ゲルマニウム配位子を有する白金三核錯体と金(I)錯体との反応では,電子豊富な白金の三核構造へのカチオン性金(I)化学種の付加によって四面体型の中心構造を有する白金-金異種金属クラスターの精密合成を達成した.この結果は,一般に反応系中が複雑となり,精密合成が困難である異種金属複核錯体の合成について新たな手法を提案するものである.また,得られた複核錯体は,報告例の少ない安定な金-炭素結合を有する構造や電子豊富な金(I)中心などの特徴的な構造を有しており,これを利用した新たな分子変換反応や触媒反応へと研究を発展させることが可能であると考えられる. 上記の結果から,本研究では新たな複核錯体の合成とその特性評価を通じて,錯体化学に新たな知見を与える重要な研究成果を得ることができたと考えられる.また,当初の目的であった反応場となる複核錯体の合成を達成できたため,本研究はおおむね順調に進展しているものと判断した.
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今後の研究の推進方策 |
初年度の成果を基に,得られた種々の新規複核錯体を用いた分子活性化および触媒反応への応用を検討する.反応に用いる複核錯体および生成物は反応性が高く,分解や副反応が進行しやすいと予想されるため,反応温度や基質といった実験条件を精査して目的化合物の単離を目指す. 平面型パラジウム四核錯体上での分子活性化では,引き続きヒドリド錯体とシラン化合物との反応を検討する.生成物の安定性の向上を目的とし,より嵩高い置換基を有する1級シランを用いて反応を行う.得られた錯体はX線結晶構造解析や各種分光法によって同定し,重水素化実験等を行うことにより,シランの交換および付加反応のメカニズムを考察する.反応生成物を単離および同定を達成した後,シラン付加錯体を用いた不飽和有機分子のヒドロシリル化を検討する.平面型複核錯体では,シランのケイ素-水素結合活性化と不飽和有機分子の炭素-炭素多重結合活性化が異なる金属中心上で進行することにより,高い反応性や新たな反応選択性を示すことが期待される.理論計算等を用いることでこれらの触媒サイクルについてより詳細な考察を行う. 白金-金異種金属四核錯体を用いた反応では,金(I)錯体の幅広い触媒活性を利用して種々の小分子の活性化を検討する.具体的には,種々の不飽和有機分子のヒドロシリル化,ヒドロアミノ化,ヒドロアリール化等を検討する.本研究において得られた得られた白金-金異種四核錯体は,安定な金-炭素結合や電子豊富な金(I)中心等の従来の金触媒と大きく異なる性質を有しており,これらの化学的性質が分子活性化に及ぼす影響について考察する. 上記の推進方策の基,これまで知見が少なかった複核錯体の反応性の体系的な理解およびその触媒反応への展開を目的として研究を行う.
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