本研究の目的は,パラジウムと橋架けゲルミレン配位子で構成される安定な平面型複核錯体をもちいて,複数の金属中心間に生じる多電子酸化や協奏的分子活性化など,複核錯体の構造の特徴を利用した新しい分子変換反応を見出すことである. 二年目の研究では,一年目の結果を発展させるとともに,一連の研究で得られた知見を基に三次状の構造をもつ新規錯体も合成した. 1) 白金単核錯体[Pt(PPh)3]を用いてアリールアルデヒドと二級シランとのヒドロシリル化反応を行い,三核錯体との反応性の違いを考察した.種々の置換基効果や過去の文献との比較から,両者は異なる触媒サイクルを経て反応が進行しており,三核錯体の場合,3つの白金原子が協奏的に作用してシランを活性化していることが明らかとなった. 2) これまで合成したゲルミレン配位子をもつPdおよびPt多核錯体は,支持配位子として嵩高い有機ホスフィンを用いていた.今回は,立体障害の小さいイソシアニドを支持配位子とすることで三次元構造を有する新規パラジウム六核錯体[{Pd(CNXyl)2}2{Pd(CNXyl)}4(μ-XylNC)2(μ-GePh2)2] (Xyl = Xylyl)を収率76%で単離することに成功した.この錯体のCV測定をしたところ,低電位領域で段階的かつ可逆な酸化還元波が観測された. 以上のように本研究を通じて,報告者が新たに設計した新規平面状三核錯体を用いることで,通常の単核錯体とは異なる小分子活性化反応を見出し,これを触媒反応へと展開した.さらに研究計画の段階では錯体の構造は平面状のみであったが,本研究を通じて橋架けゲルミレン配位子を有する三次元状多核錯体の合成にまで研究を発展することに成功した.一連の研究は,従来の多核錯体の研究とは一線を画すものであり,非常に新規性が高く,錯体化学の分野に新たな知見を与えるものであると考えられる.
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