申請時に設定した、平成30度に達成すべき研究課題③を達成しました。この中で、ニコス・カザンザキスのナショナリズム及びギリシア・ギリシア人観に影響を与えた思想家であり作家のイオン・ドラグミスの研究を行いました。加えて同時代のギリシア人の思想家たちにも研究の射程を広げカザンザキスの現代ギリシア文学史及び思想における位置づけを行いました。この中で申請者が明らかにした成果として、カザンザキスの対トルコ感情及び東方観が他のギリシア人作家たちとは異なり、蔑視や差別意識を持たないという独自性を有していることを明らかにしました。 また彼の東方観に関して、カザンザキスがロシアに滞在していた時期に執筆した旅行紀や小説を分析した。この中でカザンザキスはギリシアと同じくロシアも東方としてしていたが、カザンザキスが一般に東方を描く際に、ロシア文学とロシア史から重要なインスピレーションを受けていることを明らかにした。 カザンザキスは体系的にロシア文学史を紹介した第一の人物であるとともにソヴィエト連邦に記者及び国賓として初めて招かれたギリシア人であるが、これまでカザンザキスのロシア体験に関する重点的な研究はなかった。本研究を通して近現代ギリシアと近現代ロシア及びソヴィエト・ロシアとの相互交流、及びロシア文学がギリシア文学に与えた影響の一端が初めて明らかにされた。
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