研究課題/領域番号 |
16J09248
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 佑介 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | フェムト秒レーザ / ポンププローブ / 電子密度解析 / 化学強化ガラス / 衝撃波 |
研究実績の概要 |
ガラスにフェムト秒レーザが照射された際に材料内に生じるダメージの形成メカニズムを実験とシミュレーションに基づき調査した. 実験ではPump-Probe光学システムと高速度カメラを組み合わせることによりレーザ光照射直後の励起電子の挙動と衝撃波の挙動がレーザパルス照射毎に変化していく様子を観察した.その結果,加工開始後数パルスまでは穴下部に高電子密度領域が不規則に形成されるものの,レーザを数10パルス以上照射し加工が進行していくと穴入口に特徴的な直線状の高電子密度領域が形成されることを示した.この穴入口付近の高電子密度領域の温度分布を計算すると,この領域で材料が高温となり変性を起こしていることが明らかとなった.また穴底部からは衝撃波が材料内外に伝播し,材料内部に衝撃波が伝播する際に形成される引張応力は材料の理論強度以上であることが明らかとなった. ダメージ形成メカニズムの検証のために,通常のガラスと化学強化により圧縮応力を材料表面に,引張応力を材料内部に加えたガラスに対し加工し,ダメージ形成形態を比較した.その結果,化学強化ガラスにおいて,穴入口には圧縮応力が形成されているにも関わらず通常のガラスとダメージに違いが見られなかった.一方で,穴壁面及び底部のダメージは圧縮応力領域で低減の傾向があり,引張応力領域で拡大する傾向が見られた.以上の結果から穴入口のダメージが熱変性であり,穴壁面及び底面のダメージは破壊によるクラックであることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ガラスへのフェムト秒レーザ加工時に生じるダメージ形成メカニズムを明らかにすることができた.これにより,そのメカニズムの発現しないような新たな加工法を提案することで,ダメージを抑制した精密加工への道が開けることが期待できる. さらにダメージ形成メカニズムをより詳細に評価するための技術習得に向け,米国マサチューセッツ工科大学に6ヶ月間留学し,材料内部で引き起こされる超高速現象の実験による定量評価に取り組んだ. 当初の計画においてはレーザ援用切削こそが最も優れた加工法であると考えていたが,材料へのダメージメカニズムを考慮した際,レーザ援用切削加工よりもさらにダメージ抑制に適しているであろう加工法を考案するに至った.新提案手法の有効性を評価するための実験装置の構築が完了したため,今後その加工方法の有効性を評価していく.
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今後の研究の推進方策 |
新提案手法の有効性評価を行っていく. 単純な実験結果による比較だけではなく,加工過程で生じる現象を超高速で観察可能な実験装置を構築済みである.これにより,ダメージ形成メカニズムの発現が抑制されている様子をピコ秒からナノ秒の超高速のタイムスケールで評価可能となり,新提案手法における加工現象を明確に示すことができるようになる. 実験と並行し,加工現象を再現可能なシミュレーションを構築する.シミュレーションで超高速ダイナミクスを再現することにより,新提案手法の中でもさらによい加工条件を,実験せずとも導き出すことができるようになると期待できる.
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