研究課題
本研究では、ヒトの腸内環境という生態系において、母乳オリゴ糖をめぐって繰り広げられるビフィズス菌を中心とした各種腸内細菌の種間関係を、生態学的な視点および代謝動態学的な視点から解明することにより、ヒトと腸内細菌との共生・共進化メカニズムを紐解くことを目的とする。本研究の目的を果たすために以下の3 テーマを中心課題として行っている。1. 乳児型ビフィズス菌4 種類による異なるオリゴ糖獲得戦略とそれらの種間関係の解析2. 安定同位体標識した母乳オリゴ糖および部分分解物ラクト-N-ビオースの合成3. 安定同位体標識オリゴ糖を用いた腸内細菌群集の生態学的および代謝動態学的解析その結果、1に関しては、ビフィズス菌の純粋培養を行い同程度の増殖がみられる培地組成の検討を行い、定量PCR用のサンプルを準備した。また、Bifidobacterium longum subsp.longumが有するオリゴ糖分解酵素の構造解析に成功した。1に関連する結果としてビフィズス菌のみが有すると考えられていたヒトミルクオリゴ糖分解酵素がビフィズス菌以外のヒト腸内細菌もその分解酵素のホモログを有していることを示した。それらの腸内細菌が有する分解酵素のホモログ配列はこれまで機能未知タンパク質としてデーターベース上に登録されていたため、機能未知タンパク質の機能解明につながる結果が得られた。また、それらの腸内細菌が実際にオリゴ糖を利用していることが培養実験により示された。今後はビフィズス菌とそれらの腸内細菌とのオリゴ糖をめぐる関係も明らかにする予定である。2に関しては安定同位体標識したオリゴ糖を安価で合成するための方法を検討したが、今後さらなる条件検討を行う。
3: やや遅れている
3課題のうち、1に関して、酵素の構造解析のデータまとめに時間を費やしたため、やや遅れてはいるが、定量PCRや培地組成検討などの予備実験を行った。2に関しては、オリゴ糖の主要成分の合成を試みたが、さらなる条件検討が必要であることがわかった。
今後は、前年度の研究計画も含めて研究計画に沿って研究を推進する。平成29年度は3課題のうち、特に2に注力する。具体的に、1については、4種のビフィズス菌を共培養して生育に有利なビフィズス菌を明らかにし、ホモログ配列を有する他の腸内細菌も含めて共培養実験を行う予定である。また2については、オリゴ糖の合成法の条件検討を進める。3については、2で合成した安定同位体標識オリゴ糖を腸内細菌群集に添加し、取り込んだ腸内細菌を明らかにする予定である。研究遂行上大きな問題は無いが、特に2について安定同位体標識したオリゴ糖を合成するための安定同位体標識糖が高価であるため予算内での購入量が限られると推測される。
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Cell Chemical Biology
巻: 24 ページ: 515-524.e4
http://doi.org/10.1016/j.chembiol.2017.03.012
http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2017/20170404-1.html
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2017-04/cp-hab033017.php
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2017/170407_1.html