感音難聴は20%もの有病率を持つ疾患であるにも関わらず、有効な治療法は確立されていない。なぜなら、音を検出するための有毛細胞が一度傷害されると再生しないからである。有毛細胞は「不動毛」という高度に発達したアクチン高次構造で音を検出しているが、不動毛はその複雑な構造ゆえに、内耳再生治療における最大のハードルでもある。本研究の目的は、アクチンや制御分子の動的制御が不動毛という複雑な高次構造を作り上げるメカニズムを解明することである。そのために、①不動毛のアクチン制御分子に対する単分子スペックル法による観察、②三次元新型超解像顕微鏡(3D-IRIS)による不動毛制御分子の超解像マッピングを行った。 ①では、GFP標識したアクチン制御分子を培養細胞内に発現させ、一分子イメージングをもちいてその生化学的性質を解析した。特に、非症候群性感音難聴の原因遺伝子であるDIAPH1の新規変異(R1204X)の解析を行い、自己不活化機構の障害に起因する異常なアクチン重合活性がDIAPH1変異における難聴の病態であることを突き止めた。本研究成果はEMBO Mol. Med.に共著で掲載されている。また、韓国で発見された新規変異に対して共同研究を開始し、こちらも近日中に論文投稿予定である。 ②では、迅速に結合解離するプローブを用いた超解像顕微鏡であるIRISを用いて、多種多様なターゲットの可視化を行った。一分子イメージングを用いて標的とプローブの結合解離を直接可視化するスクリーニング法を確立し、複数のペプチドタグや内在性ターゲットに対してプローブの単離やイメージングに成功した。組織を用いた多重染色にも成功しており、研究成果は近日中に論文投稿を予定している。
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