研究課題/領域番号 |
16J09325
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
米原 善成 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 海上風 / GPS / ミズナギドリ / アホウドリ / バイオロギング |
研究実績の概要 |
本研究課題は海鳥の飛翔行動を解析することで、海鳥が経験した風を推定し、従来の衛星観測による風情報を補完することを目的としている。本年度はまず、海鳥の2次元的な動きに着目して風向・風速を推定し、従来の衛星観測を補完できることを示した。さらに、これらのモデルを海鳥の3次元的な動きを考慮したものに拡張するために、野外調査を行い、データを取得した。 1.海鳥の飛行経路から2次元の風向・風速を推定。 これまでの野外調査で得たミズナギドリ類やアホウドリ類の飛行経路データから、追い風や向かい風によって対地速度が変化する効果を利用して洋上の2次元的な風向・風速を数分という細かいスケールで推定することに成功した。これらの風向・風速の推定値が従来の気象衛星による風観測では捉えられない風の変化を記録し、時空間的な空白を補完できる可能性を示した。 2.海鳥の3次元的な飛行経路から風速勾配を推定。 上記の結果を踏まえ、2016年8~9月にかけて岩手県船越大島でオオミズナギドリを対象として野外調査を行った。飛行経路以外に羽ばたきや高度変化を記録するために、GPSと加速度計を17羽に装着、16羽から回収し、高度変化を記録できるフライトレコーダーを2羽に装着しすべて回収した。それぞれの記録計から約9時間~2日間のデータを取得した。上記1で示した風推定手法だと水平方向の風速のみを扱っているが、海上の風速は高度に従って変化している可能性がある。本年度使用したフライトレコーダーに記録された気圧から海鳥の飛行高度を算出できるため、上記の風推定モデルを高度に応じて風速が変化するモデルに拡張した。その結果、オオミズナギドリは追い風時には波やうねりによって引き起こされた強い風速勾配を、向かい風時には弱い風速勾配を経験している可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、①海鳥の飛翔行動を考慮した海上風推定モデルを開発することと②このモデルを用いて、観測空白域での海上風を推定することである。実施内容についてはA. 海鳥の水平の対地速度が追い風時に増加し、向かい風時に減少する効果(進行方向に対する風の効果)、B. 高度によって風速が変化する効果(風速勾配の効果)、C. 羽ばたきにより速度が上昇する効果(羽ばたきの効果)の3つを解析することを目標としている。 今年度はまず過去に得られたデータを利用して、海鳥の2次元的な飛行経路から風向・風速を推定し、観測空白域を補完するデータが得られることを示したことで、Aについては①、②ともに目的を達成した。また、今年度の野外調査で気圧から高度を計測できるフライトレコーダーをオオミズナギドリに装着し、高度を考慮した風速勾配の推定モデルを作成した。これにより、Bについては①の目的の達成に近づいた。さらに、今年度の野外調査で羽ばたきを記録できる加速度計をGPSと同時にオオミズナギドリに装着しており、Cについて解析するデータを得た。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られたオオミズナギドリの飛翔行動データを解析し、風速勾配の効果と羽ばたきの効果を考慮した風推定モデルを確立する。来年度もオオミズナギドリを対象とした野外調査を行い、フライトレコーダー、GPS、加速度計を装着する。得られたデータから飛行中の姿勢も含めたより精度の高い飛翔行動の解析を行う予定である。さらに、海鳥の飛翔行動から推定した風データがデータ同化を通じて気象予測の改善に貢献できるかを検証するために、気象研究者に風データを提供する。
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