本研究では、「海鳥を利用した海上の風観測」を目的として、まず①海鳥の飛行データから海鳥が経験した風情報を推定する手法の確立を行った。続いて、②推定した風情報を用いて観測空白域を補間できる可能性を示した。最後に、③推定した風を用いて、海鳥が様々な風条件にどのように対応して飛行しているかを調べた。 本研究では、2016年および2017年8~9月に、岩手県山田町船越大島で繁殖するオオミズナギドリを対象にGPSや加速度記録計を装着する実験を行った。GPSで得られた飛行速度と進行方向から、鳥が風に押されて速くなったり押し戻されて遅くなったりする現象を用いて、鳥が経験した風を推定した。推定した風情報は、気象衛星で得られた風情報とよく相関しており、5分間隔・2~3km間隔というこれまでにない細かい時空間スケールで得られた。この手法を用いて、岩手県に台風が接近したときに飛行していたオオミズナギドリから求めた海上風データを、気象研の研究者に提供し、鳥から推定した風を気象モデルに同化したところ、予測される風速場が変わることがわかった。これらのことから、海鳥が海洋観測の新たなプラットフォームとなる可能性が示された。 推定した細かいスケールの風に応じてオオミズナギドリがどのように飛んでいたかを調べたところ、特に追い風時に、風速が強くなるほど羽ばたきが減少し飛行速度が上昇していた。羽ばたきと滑空を織り交ぜた非定常な飛行によって、最もエネルギー効率が良くなる飛行方法を数値計算によって求めた結果、野生のオオミズナギドリで見られた飛行特性とよく一致しており、向かい風でも追い風でも風速が強くなるとダイナミックソアリング(鉛直方向の風速勾配からエネルギーを得る飛行方法)を行い、効率よく飛行することが分かった。このような風に応じた飛行様式の解明は、鳥の飛行から風を推定する手法の精度の上昇につながると期待される。
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