平成29年度に行った研究は以下のとおりである。 1.昨年度末に再投稿の指示を受けていた論文に関しては、"Trade Balance Volatility and Consumption Structures in Small Open Economies"として国際学術雑誌 Economics Letters 156号に掲載された。 2.昨年度の第2の研究の続きとして、新興国と先進国の景気循環の違いに関して、生産面に注目したモデル分析を行った。ここでは、標準的な小国開放経済のRBCモデルに学習効果の要素を導入した。結果として、学習効果の高い場合には短期的な技術ショックの持続性が高まって長期的ショックに近い性質を持つようになり、データの示す新興国の景気循環と整合的な結果が得られた。さらに、内生的成長を通じて新興国経済の経済成長率が高くなり、同一のモデルで経済成長率と景気循環の両方を説明することができた。これらの結果は "Learning by Doing and Business Cycles in Small Open Economies" として、国内外の各種学会やセミナーで報告した。 3.昨年度の第3の研究の続きとして、「2」と同様に生産面に注目した分析を行った。特に、新興国において、所得を変動させるショックと、消費と貯蓄との代替性に影響するショックのいずれの役割が大きいかを探求した。モデルは、標準的な小国開放経済のRBCモデルであるが、新興国での金融市場の不完全性を考慮し、借入制約を含むモデルも利用した。結果として、借入制約のない場合には所得を変動させるショックが重要であるが、借入制約が存在する場合には、代替効果に関係するショックの役割がより大きいことが示された。この結果は京都大学ランチタイム・ワークショップにて報告した。
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