研究課題/領域番号 |
16J09368
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研究機関 | 国立研究開発法人土木研究所 |
研究代表者 |
花本 征也 国立研究開発法人土木研究所, 土木研究所(つくば中央研究所), 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 抗生物質 / 河川 / 底質 / 収着 / 陽イオン交換 / 収着競合 / 金属錯体 / 疎水性相互作用 |
研究実績の概要 |
本年度は医薬品類の河川底質への収着平衡定数の予測を目的に研究を実施した。収着平衡定数を予測するためには、まずは、どのようなメカニズムで底質に収着しているのか(収着機構)を明らかにする必要がある。本研究では、医薬品類の中でも特に収着性の高い、抗生物質のアジスロマイシンとレボフロキサシンを対象とし、OECDのガイドライン(No. 106)に基づいて河川底質への収着実験を行い、溶媒の水質条件を変化させることで収着機構の解明を試みた。具体的には、溶媒には塩化ナトリウム水溶液を用い、pH(6.5、11.6)、イオン強度(NaCl:100 mM、10 mM)、EDTA濃度(1 mM, 0 mM)を変化させた場合の収着平衡定数を評価した。また、収着実験に用いた底質は、淀川水系の桂川(羽束師橋、宮前橋)、西高瀬川、古川、多摩川水系の多摩川(日野橋、関戸橋)と浅川、霞ヶ浦流域の桜川の計8地点から採取した。 陽イオン交換が対象医薬品の底質への主要な収着機構であると考えられた。陽イオン交換による収着平衡定数は、吸着剤の陽イオン交換容量と、対象物質と共存する陽イオンとの収着の競合性(選択性)を用いることで、NICA-Donnanモデルにより予測可能であると考えられる。従って、これら医薬品の環境水中の主要な陽イオンとの競合性を評価した。競合イオンをNa+に統一した系における収着平衡定数は、前述のとおり既に評価済みであるため、CaCl2溶液(50 mM)を用いて、競合イオンをCa2+に統一し、前述の8底質を対象に収着平衡定数を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EDTAは底質の負電荷サイトに吸着している交換性の金属イオンや底質の鉱物中に含有される金属元素と錯体を形成するため、対象医薬品の錯体形成による底質への収着を抑制すると考えられる。本実験では、EDTAの添加による収着平衡定数の変化はほとんどなかったことから、錯体形成の影響は小さいと考えられた。また、対象医薬品は、pH=6.5の中性溶液中では分子内のアミノ基が正電荷を帯びているため、共存する陽イオン濃度の増加により、陽イオン交換が抑制される。ナトリウムイオン濃度の増加により収着平衡定数が低下しており、低下の程度は、陽イオン交換が主な収着機構である有機化学物質に対する報告値と類似であったことから、対象医薬品に対しても陽イオン交換が主要な収着機構であると考えられた。また、pH=11.6の塩基性溶液中においては、対象医薬品のアミノ基は帯電していないため、陽イオン交換反応は生じない。本研究では、塩基性溶液中において、対象医薬品の収着平衡定数が大幅に低下していたことから、陽イオン交換の重要性が示され、前述の結果と調和した。また、塩基性溶液中においてアジスロマイシンは分子態として存在しているため、疎水性吸着の影響は小さいことが示された。 競合イオンがCa2+の場合の収着平衡定数は、Na+の場合に比べて、5~10倍程度の低い値をとることが明らかとなった。また、Ca2+とNa+との収着平衡定数の比は陽イオン交換が主な収着機構である有機化学物質に対する報告値とも類似していた。これにより、対象抗生物質の底質への収着平衡定数は、他の有機化学物質と類似のパターンを示す可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究により、河川底質中に高濃度で存在する抗生物質のアジスロマイシンとレボフロキサシンに対して、底質への収着平衡定数の予測可能性が示された。今年度は以下の内容で研究を遂行する。 ・アジスロマイシンとレボフロキサシンを対象とし、底質への収着平衡定数の予測手法を確立させる。具体的には、昨年度の検討において重要性が明らかとなった陽イオン交換反応に着目し、実底質だけでなく、底質中鉱物を用いて収着試験を行う。また、底質中金属との錯体形成反応に対しても、交換性金属との錯体形成と鉱物中金属との錯体形成に分けて検討を行う。これらの検討により、幅広い底質に対して適用可能な収着平衡定数の予測手法を構築する。 ・河川水から底質への物質移動定数を評価する。具体的には、底質を敷き詰めることが可能な実験水路を構築し、流速と底質性状による河川水-底質間の物質移動定数の変化を評価する。 ・多摩川水系の浅川において現地調査を実施する。底質への収着平衡定数と河川水-底質間の物質移動定数からの予測濃度と、現地調査による実測濃度を比較し、河川水-底質間における医薬品類の物質移動現象のモデル構築と検証を行う。
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