昨年度の結果を元に、底質の構成成分である鉱物と腐植を用いて、アジスロマイシンとレボフロキサシンの河川底質への収着性(Kd)の予測可能性を検討した。具体的には、鉱物には、対象底質の主要な粘土鉱物であるイライトとクロライト、また、対象底質には含まれていないが世界的には広く分布しており陽イオン交換容量の高い粘土鉱物であるモンモリロナイトの3種を選定した。また、腐植の代わりに、底質を採取した河川流域の主要な土壌であり、負電荷サイトが主に腐植に由来する黒ボク土を対象とした。 その結果、レボフロキサシンは、単位負電荷当たりのKd(=Kcec)が鉱物3種と黒ボク土で類似していたが、アジスロマイシンのKcecは鉱物3種が黒ボク土よりも100倍以上高かった。これにより、アジスロマイシンは鉱物と腐植への収着を別個に評価するべきであるという昨年度の成果が検証された。また、イライト、クロライト、黒ボク土のKcecを用いて、既存モデルにより、対象底質のKdを予測したところ、両物質共に、予測値は実測値の0.1から10倍の範囲内に含まれており、予測が可能であることが示された。また、対象底質において、アジスロマイシンは主に鉱物に収着していたのに対し、レボフロキサシンは鉱物と腐植の両方に収着していることが示された。また、両物質共に、選定した鉱物3種のKcecは類似しており、他物質での報告と併せて考えると、鉱物種別によるKcecの差異は小さいと考えられた。これらのことから、アジスロマイシンに関しては、本研究で使用したモデル式と入力値を用いることで、性状の異なる他の底質に対しても、収着性が予測可能であると考えられた。本研究で得られた結果を、河川水―底質間の医薬品類の物質移動のモデル化に活用したいと考えている。
|