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2016 年度 実績報告書

分配の正義を支える認知プロセスとその神経基盤の検討

研究課題

研究課題/領域番号 16J09390
研究機関東京大学

研究代表者

齋藤 美松  東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 特別研究員(DC1)

研究期間 (年度) 2016-04-22 – 2019-03-31
キーワード向社会的行動 / 援助行為の効率性 / 援助行為の認知基盤 / 情動的援助行為
研究実績の概要

これまでの向社会的行動の研究では、その向社会的行動の場面が、行為者がその場に埋め込まれている「今ここ」の内集団的場面であるか、「今ここ」には存在しない遠隔の問題に対する援助場面なのか、といった区別に注目してこないまま、自動的認知プロセスの果たす役割を中心に論じてきた。しかし、そういった援助場面の文脈の差異は、援助行動の効率性、つまり、本来の向社会的行動の目的である「他者福利の向上」をどのように実現するか、といった重要な点に大きな構造的違いをもたらしうる。「今ここ」を超えた文脈において、効率的な向社会的行動を行うためには、未知の状況に対する視点取得や、自分が外部から介入することに伴う外部性を考慮せねばならないはずである。そこで、本研究では、 「今ここ」を超えた向社会的行動の典型的場面として外集団への援助場面に焦点を当て、そこでの熟慮的な認知プロセスの働き、及び情動にまかせた直感的な向社会的行動の副作用について検証を行った。
実験の結果、他者のために行動するときは、自分の利得のために行動するときに比べ、行動の効率性が低いことがわかった。しかも、その非効率性は援助行為を「過剰に」実施することで生じていることがわかった。このことは、人々は向社会的な選好を持つが、情動に基づく自動的な処理では「今ここを越えた不遇」に適切に対処できない可能性及び、状況に応じた熟慮的な行動調整の重要性、を示唆した。
これらの成果は、第19回実験社会科学カンファレンス、第10回新・社会心理学コロキウム、日本人間行動進化学会第8回大会などにおいて発表され、全学会において多くの関心を集め、活発な議論が展開された。このことは、 実験経済学者、社会心理学者、行動生態的な視点を持った研究者といった、様々な視点からこの研究が評価されたことを意味する。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

これまで向社会的行動の認知基盤の研究においては、その情動的・直感的側面が注目されてきた。そんな中、28年度には、本来の向社会的行動の目的である「その援助行為が実際に他者福利をどれだけ改善させるか」という側面(行動の効率性)に注目した研究を行った。このアプローチはその問題意識から、最終的に社会施策的な含意を持つものとして、社会心理学のみならず、経済学の研究者からも関心を集めることができた。このことにより、より広い文脈においてインパクトを持つ研究になりつつあると考えられる。
また、28年度では、認知・生理計測技術の習得も順調に進み、Eye Tracker(視線追尾装置)を用いた認知プロセスの測定・解析に関する技術を生かして国際誌(Evolution & Human Behavior)に共著論文を掲載することもできた。これらの技術面の習得も含め、来年度には、より直接的に向社会的行動とその効率性との関係を、認知プロセスの直接的証拠を使って検証することができると考えられる。
これらの意味で、当初に想定した以上に、研究が進展していると言える。

今後の研究の推進方策

28年度では、主に行動データの結果から、進化的に形成された「今ここ」にチューニングされた人々の向社会的傾向がもたらす現象についての示唆を得ることに成功した。次年度では、このパラダイムにおける測度を生理・認知的な手法を用いて拡張し、向社会的行動が伴う情動的な側面について、より直接的な証拠を得ることを目指す。また、最終的には社会施策に寄与すべく、どのような場合に熟慮的な処理が行われやすくなるのかの規定因について、被験者内要因として検証するための基礎を作る。また、28年度に得られた研究について論文を投稿する。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2016

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件)

  • [雑誌論文] Individual differences in learning behaviours in humans: Asocial exploration tendency does not predict reliance on social learning.2016

    • 著者名/発表者名
      Wataru Toyokawa, Yoshimatsu Saito & Tatsuya Kameda.
    • 雑誌名

      Evolution & Human Behavior

      巻: 38 ページ: 325-333

    • DOI

      10.1016/j.evolhumbehav.2016.11.001

    • 査読あり
  • [学会発表] Warm Heart, but Cool Head: 援助行為における熟慮・計算の重要性2016

    • 著者名/発表者名
      齋藤美松・亀田達也
    • 学会等名
      第9回日本人間進化行動学会
    • 発表場所
      金沢市文化ホール(石川県金沢市)
    • 年月日
      2016-12-11
  • [学会発表] 分配方法の評価に対するOutcome biasの影響2016

    • 著者名/発表者名
      齋藤美松・松元洋亮・亀田達也
    • 学会等名
      行動経済学会第10回大会
    • 発表場所
      一橋大学(東京都国立市)
    • 年月日
      2016-12-04
  • [学会発表] 熟慮なき"向社会行動"は向社会的か ~直感的な援助行為の限界~2016

    • 著者名/発表者名
      齋藤美松・亀田達也
    • 学会等名
      第10回新・社会心理学コロキウム
    • 発表場所
      東京大学(東京都文京区)
    • 年月日
      2016-11-25
  • [学会発表] 熟慮なき"向社会行動"は向社会的か ~直感的な援助行為の限界~2016

    • 著者名/発表者名
      齋藤美松・亀田達也
    • 学会等名
      第20回実験社会科学カンファレンス
    • 発表場所
      同志社大学(京都府京都市)
    • 年月日
      2016-10-29
  • [学会発表] 分配方法の評価にoutcome biasが与える影響の検討2016

    • 著者名/発表者名
      齋藤美松・松元洋亮・亀田達也
    • 学会等名
      日本社会心理学会第57回大会
    • 発表場所
      関西学院大学(兵庫県西宮市)
    • 年月日
      2016-09-17

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公開日: 2018-01-16  

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