研究課題/領域番号 |
16J09390
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
齋藤 美松 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 向社会的行動 / 援助行為の効率性 / 援助行為の認知基盤 / 情動的援助行為 / 持続可能な社会形成 / 世代間衡平 |
研究実績の概要 |
今年度では、28年度に実施した行動実験のパラダイムを基礎とし、被災地への援助行動に取り組んでいる際の認知生理反応を、視線追尾装及び、生理測定装置によって測定した。結果として、自己利益のための行動するときに比べ、他の参加者と協働して被災者のための寄付金を獲得する場面では、過剰な援助行動によって援助の効率性が減少することが確認された。さらに、そうした過剰な援助行動が、高い喚起水準を伴うことが瞳孔サイズのデータから示唆された。一方、実験参加者がいわば社会施策者のような立場に立たされ、援助行為全体の取り組み方をプランニングする必要があった条件では、そういった効率性の減少は見られず、熟慮的な援助行為の可能性が示唆された。これらの成果は、日本人間行動進化学会第10回大会(若手研究発表賞受賞)、及び、新学術領域研究「共感性の進化・神経基盤」第2回若手研究者合宿において発表された。 また、社会の持続可能性問題についての調査研究も行った。現在の社会制度のもとでは、今を生きる現在世代の利得が最大化されるよう資源の消費が惜しみなく実行され、社会の持続可能性が危ぶまれている(西條, 2015)。本研究では、一般的には社会の持続可能性問題に否定的に捉えられている高齢層こそが、むしろ持続可能社会のためのキープレイヤーとなる可能性を行動生態学的観点から考察し、文京区の有権者2000名を対象に質問紙調査を行った。その結果、人々は子や孫を持つといったように、ライフヒストリーを進むにつれて、将来世代の立場から現代の社会政策に意見しようという意欲が高まることがわかった。これらの成果は、第21回実験社会科学カンファレンス、及び、第1回フューチャー・デザイン・ワークショップにおいて発表され、経済学者、及び実際に行政活動に携わる人々からも関心を集めた。また、朝日新聞の社説においても紹介されるなど社会的関心も集めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究は、向社会的行動の情動的側面が、その効率性を損なう場合があることを、認知生理データを測定して検証することができた。情動やヒューリスティックなどにかられた「今ここ」対応型の反応だけにまかせた行動では、現代的文脈において生じる様々な問題には対応できない場面が多々存在する。こうした時代的背景からも、本研究の重要性は高まっており、日本人間進化行動学会大10回大会では、若手研究発表賞も受賞することができた。 また、上記の認知基盤の研究にとどまらず、社会の持続可能性問題の解決へのヒントを探るべく社会調査も行い、より研究成果の社会実践に向けた試みもスタートさせることができた。この成果は朝日新聞の社説でも取り上げられ、社会的注目も集めた。 これらの意味で当初に想定した以上に研究が進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
29年度には、援助行動に外部性が伴うような場面では、その効率性が情動的な換気を伴った過剰な援助行動によって損なわれること、また、社会施策者的な立場に立たされることが効率的な援助行動を導きうることも示された。加えて、社会の持続可能性の問題に、高齢者が果たす役割についての社会調査研究も社会的インパクトが大きいものであった。最終年度である次年度では、これらの結果を一般国際誌に投稿し、成果を社会的に発表することを最優先課題として論文執筆を行う。また、これらの結果を、学会における研究発表にとどまらず、社会施策に寄与することを念頭に置いて情報発信することを目指す。
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