研究課題
本研究は、宇宙初期の謎に迫るための望遠鏡開発とそれを用いた観測を行うものである。宇宙初期に加速的膨張があったとするインフレーション理論は、現行の宇宙モデルに残された謎を解き明かすが、実験的には未だ証明されていない。その加速膨張の痕跡を、原始宇宙の残光・宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の偏光パターンに見出そうとするのが、本研究で開発するGroundBIRD望遠鏡である。本研究の内容は、①CMB偏光望遠鏡GroundBIRDの開発、及び②GroundBIRDを用いた実際の観測、の二つに分けることができる。開発要素は複数あり、その中でも超伝導検出器MKID運用技術の確立は、非常に挑戦的な課題となっている。MKID (Microwave Kinetic Inductance Detector) は、未だ萌芽期の技術でありながら大きな期待を集めている。MKIDは複数の素子を同時に読み出すことが容易であり、それが多素子化を目指すイメージングや、統計数が重要となる分野に注目を浴びている。CMB望遠鏡はなるべく多くの光をいちどきに測る性能が感度の決め手になるため、このMKIDとの親和性が高い。本年度の研究では、このMKIDを多重読み出しする技術の開発を行った。特に高速・高精度・高安定性を全て満たすデータ取得システムは一つの達成である。また、そのデータ取得を直感的に行えるよう、GUIを用いたソフトウェア開発にも進展があった。こうした日本での開発とともに、この分野において先進的な経験を有しているオランダへと出張を行い、発展的な技術の習得を行なった。また、②の点に関して、望遠鏡を設置する予定のカナリア諸島に実際に赴いて現地調査を行い、次年度以降に望遠鏡を実際に設置するための準備を進めた。カナリア天体物理研究所の所長及び担当の研究者との打ち合わせとともに、望遠鏡のデータ転送に関する実測を行った。
2: おおむね順調に進展している
多素子のMKIDを読み出すためのデータ取得システム開発に成功した。特に、本研究で開発された高速・高精度・高安定性を全て満たす読み出し系は、CMB望遠鏡 GroundBIRD で利用できるのはもちろんのこと、将来の MKID を用いる実験にも幅広い応用が考えられる。今後この結果の論文・国際会議での発表を予定している。また、カナリア諸島での調査を行い、データ転送の方式を決定することができた。
MKID 読み出しシステムの開発ができたので、それを用いて理化学研究所で開発された GroundBIRD 搭載用の素子を評価していく。また、それを望遠鏡と組み合わせた運用の方式を確立し、その上で望遠鏡をカナリア諸島へと運搬・設置し、運用を開始する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Proc. SPIE
巻: 9906 ページ: 99063L
10.1117/12.2231672