研究実績の概要 |
安価で豊富な元素から構成されるp型化合物半導体ZnSnP2は1.66 eVの直接遷移型バンドギャップを有し, 光吸収係数が可視光領域で105 cm-1 程度と高いことから, 安価で高効率な薄膜太陽電池材料として期待される. しかし, ZnSnP2を太陽電池材料として利用した報告例はこれまでにない. 本研究では, 高効率太陽電池の実現を目指し, ZnSnP2バルク結晶を用いてバンドギャップ制御技術の確立に取り組んだ. (1)ZnSnP2の長範囲規則度操作によるバンドギャップ制御 フラックス法を用いて種々の冷却速度によりZnSnP2結晶成長を実施することで様々な長範囲規則度を有するZnSnP2結晶を作製することに成功した. これらのサンプルの粉末XRD測定結果より長範囲規則度を詳細に評価し, 拡散反射率測定からバンドギャップ測定を実施することで長範囲規則度とバンドギャップの定量的な関係が求められた. また, アニール処理を用いることで長範囲規則度の操作が可能であり, これに伴ってバンドギャップの値を制御可能であることが示唆された. これらの実験結果は, 今後, 高効率太陽電池実現する上で重要な知見である. (2)ZnSnP2バルク結晶を用いた太陽電池の作製および評価 CIGS等の化合物半導体太陽電池で用いられるセル構造を参考に, ZnSnP2バルク結晶を用いた太陽電池セルの試作および性能評価を実施した. 裏面電極材料の最適化とZnSnP2結晶の王水エッチングを行った結果, 短絡電流密度, JSC, 開放電圧, VOC, 曲線因子, FF, 変換効率の値それぞれ8.2 mA/cm2, 0.452 V, 0.533, 1.97 % が得られた. この研究成果は, これまでデバイス応用が実現されてこなかった当該分野において, 飛躍的な進歩と言える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は, バルク結晶を用い「ZnSnP2の長範囲規則度操作」および「Zn1-xCdxSnP2固溶体形成」によりバンドギャップ制御技術を確立し, 高効率太陽電池応用に繋げようとするものである.
これまでに「ZnSnP2の長範囲規則度操作」に関して, 長範囲規則度とバンドギャップの定量的な関係を明らかにし、バンドギャップの制御方法について知見を得ることができた. これらの知見は高効率太陽電池を実現する上で重要である. また, バルク結晶を用いて太陽電池を試作することで世界で初めてZnSnP2を光吸収層に用いて光照射により発電することが確認できた。この研究成果は, これまでデバイス応用が実現されてこなかった当該分野において, 飛躍的な進歩と言える. このように, 当初の研究計画のひとつであった「ZnSnP2の長範囲規則度操作」について目的を達成し, さらに太陽電池デバイス化を実現することができた. 以上から, 本研究は当初の計画以上に進展していると判断した次第である.
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今後の研究の推進方策 |
(1)Zn1-xCdxSnP2固溶体を用いた物性制御方法の探索 CdSnP2はZnSnP2と同様のChalcopyrite型構造を持ち, バンドギャップの値が1.18 eVでn型半導体であることが知られている. 本研究では, 両者の固溶体Zn1-xCdxSnP2を用いることで光学・電気特性の制御技術確立を目指す.
(2)ZnSnP2バルク結晶太陽電池を用いたセル構造の最適化 ZnSnP2バルク結晶を用いた太陽電池では, 初めて変換効率約2 %を記録したものの, 開放電圧の値約0.5 Vとバンドギャップの値を考慮すると1 eV以上も小さな値である. この太陽電池ではn型半導体としてCdSを用いているが,CdS/ZnSnP2間の伝導帯オフセットが大きく,これが低い開放電圧の原因の一つであることを申請者の研究で明らかにしている. そこで,今後はn型半導体材料の最適化について取り組む予定である.
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