本研究の目的は、哺乳類大脳新皮質と鳥類・爬虫類の新皮質相同領域とを比較解析することで、哺乳類大脳新皮質の進化過程を明らかにすることである。 平成28年度は哺乳類、鳥類の神経幹細胞に対する遺伝子機能解析を通して、神経幹細胞の制御メカニズムを種間で比較した。その結果、転写因子Pax6下流において、進化的に保存されている幹細胞制御機構と、哺乳類が進化の過程で新たに獲得したと思われる機構を同定することに成功した。さらに、種間で見られたPax6下流遺伝子制御の変化がどのようなゲノム変異に由来するのかを特定するために、哺乳類・鳥類ゲノムのそれぞれからエンハンサー領域をクローニング、レポーターアッセイを行った。現在までに、哺乳類特有の脳構造の創出に寄与したと考えられるメカニズムをいくつか明らかにしている。我々の研究成果から、神経幹細胞制御機構の進化過程の背景には、転写因子による遺伝子発現調節機構およびシグナル伝達機構の、時空間的な制御様式の変化が存在することが判明した。 現在、爬虫類胚を対象とした実験を進めており、哺乳類特有に観察された神経幹細胞制御機構が祖先型なのかどうかを検証したいと考えている。予備実験から、爬虫類の神経幹細胞制御機構は、鳥類で見られたものと同じであることが示唆されている。現在、爬虫類神経幹細胞への遺伝子導入効率の向上に成功したため、今後は哺乳類・鳥類に加え、爬虫類でデータを収集し、神経幹細胞制御機構の進化過程をより詳細に調べたい
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