本研究の目的は、哺乳類大脳新皮質と鳥類・爬虫類の新皮質相同領域とを比較解析することで、哺乳類大脳新皮質の進化過程を明らかにすることである。平成29年度は、鳥類・爬虫類型の大脳皮質の発生様式を解明することを目的に、神経幹細胞から神経細胞への分化過程における細胞系譜追跡解析を行った。さらに、Pax6遺伝子の機能解析を鳥類で行うために、CRISPR/Cas9システムを用いた遺伝子ノックアウトニワトリ胚を作製した。 哺乳類の大脳皮質発生過程において、Pax6遺伝子は、脳のパターニング、幹細胞・前駆細胞の分化制御、大脳皮質の6層構造形成など、さまざまな機能を担っていることが知られている。本研究から、鳥類・爬虫類の大脳皮質発生過程においても、Pax6遺伝子は、哺乳類と同様の脳パターニング機能を担うことが明らかとなった。一方で、幹細胞・前駆細胞の分化制御様式や、層構造形成に関わる遺伝子の制御様式が、哺乳類と鳥類・爬虫類では異なることが明らかとなった。Pax6下流遺伝子発現の網羅的解析およびゲノム中のエンハンサー領域の機能比較解析から、Pax6下流で制御される遺伝子セットは哺乳類と鳥類・爬虫類との間では高度に保存されているが、その下流遺伝子発現活性には生物種間で時空間的なズレが生じていることが判明した。 本研究の成果は、大脳皮質構造は哺乳類と鳥類・爬虫類とで構造的に著しい違いが認められるのに対し、大脳皮質発生を司るPax6下流遺伝子制御機構の多くは進化的に保存されていることを示した。また、遺伝子発現制御における時空間的なズレが、このような多様な形質を生じうることを示した点で、進化学、発生学的にも意義のある研究である。昨年度に得られたものと合わせて、本研究の成果は論文の形で報告した。
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