本研究では、脊椎動物において認知能力がどのような要因によって進化してきたのかを明らかにすることを目的とした。対象としては実験も行いやすく、また社会性も多様な魚類を用いた。注目した認知能力は「推移的推察能力」である。この能力は例えば「A>BかつB>CからA>C」を導く、というものである。 これまで魚類において推移的推察能力を検証した実験はいくつかあるが、そのいずれもが同種個体の闘争を刺激としていた。そのため、刺激の強度や実験設定を統一することが難しく、種間比較は困難であった。そこで私は、ホンソメワケベラを対象として、哺乳類や鳥類と同様の方法(オペラント条件付け学習)で推移的推察能力の検証を行うことを目指した。 予備実験の結果から、「A<B、B<C、C<D、D<E」から「B<D」を導くことが示唆されていた。しかし、この順序では最後にDで報酬を得たという経験がある。そこで、逆の順序で実験を行ったところ、BDテストでDを有意に選択しなかった。このことは本種が負刺激をもとに刺激を選択したことを示しているかもしれない、と考え実験を行った。その結果、正刺激と新規の刺激が提示されたときはランダムに選択したが、負刺激と新規の刺激だと有意に負刺激を選択した。このことは逆の順序で学習した時に、学習が上手くいかなかったことを支持している。 以上の実験から、本種において推移的推察能力の検証を行うためには、順序を逆にする以外の方法で実験を行う必要があることが分かった。そこで今後は、BDテスト後に「E<A」を学習させるという方法で検証を行うこととする。これにより、関係性は崩れ、BDテストの選択はランダムになると考えられる。
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