研究課題/領域番号 |
16J09569
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
中辻 匡俊 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | DDS / 難水溶性抗癌剤 / 生体内輸送蛋白質 / 癌ターゲッティング |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,生体内輸送蛋白質であるリポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)を用いた副作用の少ない癌ターゲッティングDDSの構築を目指し,ファージディスプレイ法を用いて,L-PGDSを鋳型として抗癌剤を癌組織のみで放出する蛋白質カプセルを創製することである。 ファージディスプレイ法を用いて難水溶性抗癌剤SN-38を強固に結合する蛋白質カプセルを探索するため,L-PGDS発現ファージの取得を行った。その結果,ファージの表面に確かにL-PGDSが発現しており,また,発現させたL-PGDSが疎水性低分子結合能を有していることを確認した。 次に,ファージディスプレイにおいてランダム化を行うアミノ酸残基を決定するために,L-PGDSとSN-38とのドッキングシミュレーションを行った。その結果,L-PGDS内部の11アミノ酸残基がSN-38との結合に関与すると予測され,これらアミノ酸残基にランダムに変異を導入することにより,L-PGDS変異体ライブラリーを構築した。 さらに,ファージディスプレイ法を行う上で,SN-38を固相化する必要がある。有機化学合成法によりSN-38の修飾を行い,リンカーの長さが異なる2種類のビオチン化SN-38を合成した。また,異なる固相化法として,SN-38のBSAへの共有結合を行った。等温滴定型熱測定により,作製したビオチン化SN-38とストレプトアビジンとの結合親和性を調べた結果,高親和に結合する(解離定数 < ~nM)ことが明らかとなった。また,SN-38-BSA複合体を質量分析したところ,BSA 1分子あたり7-8分子のSN-38が結合していることが明らかとなり,SN-38の固相化が可能であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記載のように,平成27年度は,ファージディスプレイを行う上で必要不可欠な 1) L-PGDS発現ファージの取得,2) L-PGDS中のランダム化アミノ酸残基の決定とそのランダム化,3) 有機化学合成法による難水溶性抗癌剤SN-38の固相化を行い,おおむね予定通りに研究は進んでいる。 1)および2) では,ファージの表面に確かにL-PGDSが発現しており,また,発現させたL-PGDSが疎水性低分子結合能を有していること,さらにSN-38結合部位のアミノ酸残基のランダム化に成功した。 3) では,有機化学合成法により「ビオチン-ストレプトアビジンの相互作用」と「ウシ血清アルブミン(BSA)」の2種類のSN-38固相化法に着手し,どちらも成功している。 今年度はこれらを用いてファージディスプレイを行う予定であり,本申請研究はおおむね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,昨年度に作製したL-PGDS変異体ライブラリー,およびSN-38固相化法を用いてバイオパニングを行い,SN-38に対して高い結合親和性を有する蛋白質カプセルを取得する。取得した蛋白質カプセルは大腸菌発現系により,培養精製し,高純度で調製する。得られたカプセルの構造変化の有無をCD測定により確認するとともに,SN-38との結合親和性,結合比,および熱力学的パラメータを等温滴定型熱量計により決定する。また,強固に結合することが明らかとなった場合は,癌疾患モデルマウスに対して,SN-38/蛋白質カプセル複合体を静脈内投与し,抗腫瘍活性を評価する。さらに,投与後のSN-38の体内動態を調べるため,PETプローブ化SN-38を用いたリアルタイムイメージングを行う。 また,SN-38以外のその他の抗癌剤(パクリタキセル,ドセタキセル)に対する蛋白質カプセルを取得するため,各抗癌剤の固相化法を検討し,バイオパニングを行う。これら蛋白質カプセルについても,癌疾患モデルマウスを用いて抗腫瘍活性を評価する。
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