研究課題/領域番号 |
16J09590
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
芝池 諭人 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 衛星形成 / 衛星 / 周惑星円盤 / 惑星形成 / 木星 / 土星 |
研究実績の概要 |
今年度は、微小な固体物質(ダスト)の衝突合体による微衛星形成について研究し、国内の六つの研究会で成果を発表した。そのうちの二つは国際的な研究会であり、海外の研究者との活発な議論を行った。これらの研究や議論の成果をまとめた論文を現在執筆中であり、天文学と天体物理学を扱う米国の査読制度付き学術雑誌、"The Astrophysical Journal"に間もなく投稿する予定である。また、初期地球への小天体の衝突に関する発表も一件行った。 研究成果は以下の通りである。ガス惑星の形成過程で集積されるガスは周惑星円盤と呼ばれるガス円盤を惑星の周囲に一時的に形成する。ガス惑星のうち比較的大きな衛星はこの周惑星円盤の中で形成される。これまでは、この円盤の中でダストが衝突合体成長して微衛星となり、さらに合体を繰り返して現在の衛星にまで成長した、と一般的に考えられてきた。しかし、本研究によって、微衛星形成は周惑星円盤に流入するダストとガスの質量フラックス比に大きく依存し、この比を現実的な値に仮定すると、ダストは大きく成長する前にガス惑星へと落下してしまい、ダストの衝突合体成長による微衛星の形成が困難であるとわかった。つまり、これまでの先行研究の前提であった微衛星の存在が、一般的な従来の形成モデルでは説明できないとわかった。 平成29年3月には、衛星形成過程を研究している複数の海外の科学者と、4日間集中的に議論を行った。この議論により微衛星形成が困難であることを科学者間で共有し、さらに、衛星形成が可能となるメカニズムを模索した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標は、微小な固体物質(ダスト)が周惑星円盤内にどれほど流入するか、またそれらが微衛星に至るまで合体成長可能であるか、力学的な計算で検討し、その結果を論文にまとめて国際科学しに投稿することであった。さらに、幾つかの比較的大きな微衛星が小さなダストを直接集積して成長する可能性も検討する予定であった。 実際には、周惑星円盤内でのダストの合体成長による微衛星形成は、周惑星円盤に流入するダストとガスの質量フラックス比に依存し、この比を現実的な値に仮定すると微衛星形成が困難であることを解明した。また、この内容を現在論文としてまとめており、間もなく(平成29年5月中)米国の査読制度付き学術雑誌、"The Astrophysical Journal"に投稿予定である。さらに、周惑星円盤内での微衛星形成の代わりに、円盤外から微衛星のような大きな天体を供給し、それらがダストを捕獲して衛星にまで成長するような新たな衛星形成モデルの検討をすでに開始している。 これらの進捗状況から、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の成果を踏まえ、29年度は新たな衛星形成モデルを力学的な側面から検討する。周惑星円盤への小さなダストの供給だけでは衛星形成は困難であるため、周惑星円盤の外であらかじめ大きく成長した天体を周惑星円盤が捕獲して「衛星の種」として利用する。そして、この「衛星の種」が周惑星円盤内を落下していくダストを集積する(惑星形成ではペブルアクリーションと呼ばれている)ことにより衛星へと急成長する可能性を考える。この時、周惑星円盤内に流入するダストは、原始惑星系円盤(太陽の周りの円盤)の外縁部から落下してきたものを考える。 その後は、新しい衛星形成モデルについて、化学的な側面からの検討を行う予定である。具体的には、新しい衛星形成モデルにおいて形成される木星及び土星の揮発性元素量やD/H比の予測を行う。従来の衛星形成モデルでは、衛星の材料は木星及び土星の軌道付近のダストであった。一方で、現在検討している新しいモデルでは、太陽系の外縁部から移動してくるダストが衛星の材料となる。この時、これら材料物質の化学組成は従来の形成モデルで予測されたものとは異なり、太陽系外縁部の固体物質の特徴を持つだろう。実際に、土星の衛星エンケラドスは現在高いD/H比を持つ事が観測からわかっているが、太陽系外縁部で形成された彗星も同様に高いD/H比を持っている。 最終的には、この新しい衛星形成モデルで予測される衛星の化学的特徴と、従来の衛星形成モデルで予測される衛星の化学的特徴を比較することで、どちらの形成モデルがより確からしいか確認する。
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