研究課題
本研究の目的は、個々の2型糖尿病の発症パターンを早期に予測するため、2型糖尿病の主要な成因であるインスリン分泌能低下とインスリン抵抗性を予測するための遺伝的リスクスコア(Genetic risk score: GRS)を構築し、GRSによる2型糖尿病発症パターンの分類を行うことと、これらGRSが2型糖尿病発症に及ぼす影響は、どのような生活習慣・身体特性を有する者において弱まるかを明らかにすることである。平成28年度は、2つの独立したコホートにおいてインスリン分泌能低下を予測するGRSを構築し、GRSと糖代謝指標ならびに肥満指標との関連を明らかにすることを目的として研究を行った。対象は、2つの疫学コホートの参加者計1068名とした(コホートA:n=486、年齡 50.6±10.4歳;コホートB:n=582、年齡 54.2±9.6歳)とした。インスリン分泌能のGRSを構築するため、インスリン分泌能低下との関連が報告されている13個の遺伝子座における代表的なSNPを分析し、各SNPにおけるリスクアレルを合計することによりGRSを求めた。年齡と性別を共変量とした偏相関分析の結果、両コホートにおいて、インスリン分泌能のGRSは空腹時血糖値およびヘモグロビンA1cと有意な正の相関を示し、インスリン分泌能の指標であるHOMA-βとは負の相関を示した。さらに、GRSと各肥満指標との相関関係を調べた結果、コホートBにおいて、GRSはBMIおよび腹囲と有意な負の相関を示した。2つのコホートで得られた結果についてメタ解析を行った結果、本研究で構築したGRSは、BMI、腹囲および体脂肪率と負に相関することが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
1000名以上の被験者を対象としてインスリン分泌能に関わる13個のSNPを分析し、それらのSNPから構築されたGRSが、2つの独立したコホートの両方において、空腹時血糖値、ヘモグロビンA1cおよびインスリン分泌能に関連することを明らかにすることができたため。また、本研究で構築したインスリン分泌能のGRSは、2型糖尿病のリスクファクターである肥満指標とは負に関連するという、新しい知見を得ることができたため。
本年度の研究により、遺伝的にインスリン分泌能が低い者は、むしろ2型糖尿病の主要な危険因子である肥満のリスクは低い可能性が示唆されたため、来年度はサンプルサイズを1500名まで増やし、DXAにより測定した部位別の脂肪量や除脂肪量、MRIにより測定した内臓脂肪面積など、より詳細な体組成とGRSとの関連を検討する。また、インスリン分泌能のGRSが高い者と低い者において、空腹時血糖値やインスリン分泌能低下に及ぼす肥満指標の影響が異なるか否かを、横断研究と縦断研究により検討する。さらに、インスリン分泌能のGRSに加えてインスリン抵抗性と肥満に関するGRSを構築し、どのGRSが耐糖能低下と強く関連するかを明らかにすると共に、GRSによる耐糖能低下パターンの分類を試みる。耐糖能低下に及ぼす各GRSと生活習慣・身体特性との相互作用の影響を解析し、2型糖尿病の遺伝的リスクを弱めることができる要因を探索する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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