マンガン系複酸化物は、触媒、イオン交換体、電極材料などの様々な応用が可能な有用な材料である。マンガン系複酸化物をナノ粒子化することで、表面での反応の促進やイオンの粒子内拡散長の減少により、高い触媒活性や高速充放電特性等の実現が可能となると期待される。従来、マンガン酸化物は、高温高圧条件での水熱合成法で合成されてきたが、生成物の粒子径制御と結晶構造制御の両立には限界があった。マンガン系スピネル酸化物は、マンガン-酸素ユニット間に狭い空間を有し、マンガン-酸素ユニット間の空間に脱水したカチオンの入った構造を有する。 本研究では、有機溶媒中でカチオンの水和状態を制御することで、様々な結晶構造・組成を有するマンガン系複酸化物をナノ粒子として合成可能な手法を確立した。有機溶媒中での合成を可能とするために、マンガン源として有機溶媒に可溶な過マンガン酸塩を用いた。異種金属種存在下、有機溶媒中に溶解させた過マンガン酸塩を温和な還元剤で還元することでアモルファス前駆体を形成させた。さらに、得られたアモルファス前駆体を加熱することで、結晶化させ、生成物を得た。本研究では、有機溶媒中で脱水したカチオンを用いることでスピネル構造の合成が可能であった。さらに、溶媒中に意図的に水を添加することで、層状構造やトンネル構造を有するマンガン系複酸化物の合成も可能であった。得られたマンガン系副酸化物は、きわめて小さなナノ粒子であり、粒子径の大きな酸化物とは異なる特性(高速放電特性、Li+とH+のイオン交換特性、高い触媒活性)を示すことが明らかになった。
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