研究課題
生物の多様性は、集団の分断と分集団ごとに変異を蓄積することで生じる。特に,種分化のメカニズムを解明することは、独立する集団がどのようにして分化し、それぞれにおいて多様な形質を獲得し、生物が進化してきたのかを探る上で最も重要な課題である(Barton, 2001; Howard and Berlocher, 1999).世界有数の複雑な地史をもつ日本列島には、さまざまな地理的環境が存在し、日本列島に生息するあらゆる生物種群は,新第三紀以降,第四紀の現在にまでつづく、複雑な地史の影響を受けてきた。つまり,日本列島には、潜在的に集団を分断させる数多くの地史・地形(山塊や河川)が存在する。そしてガガンボカゲロウは、その複雑な地史の影響を、日本列島形成の初期段階から現在に至るまで、強く受けてきたと考えられる。そのため、より地域レベルに絞った研究を展開することで、さまざまな物理的障壁による集団の分断のプロセスを詳細に究明できるだろう。これまでの研究による中央構造線での遺伝的距離は、18.0% (mtDNA 16S rRNA領域)と同じカゲロウ目で近縁なチラカゲロウ類の種間の遺伝的距離よりも大きな遺伝的距離を示した.これらのことから、中央構造線を境にしたクレード間での遺伝的分化は別種レベルに相当すると考えられるが、交尾器形態の分類学的鍵形質に差異は認められない。そこでクレード間で繁殖が可能なのか試みた。従来、カゲロウ目昆虫における繁殖実験の報告例は皆無であり、極めて困難な試行とされてきた。しかし、本研究において “ハンドペアリング” 法が有効であることを明らかにし、繁殖実験の手法を確立できた。今後は、様々な系統間での繁殖実験を行い、遺伝的距離と繁殖隔離との間に関係性があるのかについて調べていく予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
ガガンボカゲロウ類の分布域をほぼ網羅する地域集団を対象とした分子系統地理学的研究を行ってきた。H28年度は、地域集団内での遺伝構造を解明することでガガンボカゲロウにおける分布制限要因の究明を目指し、詳細な調査・解析ができた。さらに、ガガンボカゲロウの集団間の遺伝的距離は、近縁種群の種間レベルもしくはそれ以上であることから、系統間での繁殖実験を試みていたが、手法の確立に成功し系統間での繁殖実験にも着手することができた。
今後の研究においては、地域集団に絞った調査を継続して実施することで本種群における分断障壁についてより詳細な要因を調べる。このことから生物の分布制限に起因する要因究明を目指す。さらに、手法の確立に成功した繁殖実験を様々な遺伝的距離の集団間を組みあわせて実施することで、遺伝的距離と繁殖隔離の程度について調査する。
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Entomological Science
巻: 20 ページ: 357-381
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New Entomologist
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