地球上に生息・生育する多種多様な生物は,種分化の産物であると言え,種分化機構の解明は生物多様性の創生機構の解明でもある.ここでの種とは,生物学的種概念に基づき,交配可能な集団で他の集団とは生殖的に隔離している集団を指す.つまり,種分化とは生殖隔離の進化であると言える.種分化機構を解明することは独立する集団がどのようにして分断し,生殖的に隔離され,生物が進化してきたのかを探る,進化生物学の最も重要な課題の一つである.これまでに,多くの研究者を魅了してきたが,長い時間をかけておこる進化的イベントであることもあり,生物学の中でも謎の多い課題であると言われてきた. 本研究では,山岳源流域に適応した日本固有科・ガガンボカゲロウ科に属するガガンボカゲロウに注目した.これまでの研究から,種内に種レベルに匹敵する遺伝的分化した5つの系統群が内包しており,隠蔽種が含まれている可能性を示唆した.そのため,各系統群間が既に種として独立しているのかについて調べるために,交配実験をハンドペアリング法という手法を用いることによって独自に確立した. そこで,本研究課題において,これらの遺伝系統群間での交配実験を実施し,系統群間での生殖隔離の程度を調べた.その結果,不完全な弱い隔離を示す系統間や,強い隔離,そして完全な生殖隔離を示す系統間までと段階的な状態を示し,まさに「種分化連続体」と呼ばれる状態であることが明らかとなった.つまり,長い時間をかけて繰り広げられる種分化のプロセスを連続的に留めている好例であると言え,現在進行形で進む「種分化」現象の実態を追究し得る.そして,それに伴う生物多様性創出におけるメカニズムを垣間見ることのできる貴重な種であると言えるだろう.これらのことからガガンボカゲロウは,今後の種分化研究における鍵分類群になり得る種群であることを明らかとした.
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