研究課題/領域番号 |
16J09729
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
三嶋 雄太 京都大学, IPS細胞研究所, 特別研究員(PD) (80770263)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 再生医療 / 免疫治療 / 遺伝子治療 / 腫瘍免疫 / CD8T細胞 / CAR / TCR |
研究実績の概要 |
本研究の最終目標では最大4つの大きな技術要素を融合させることで、これまでの免疫輸注療法で障壁となっていた課題を相補的に解決する次世代型がん免疫療法を実用化することである。4つの技術要素は具体的には ①iPS細胞に由来する品質の安定した再生T細胞分化誘導技術、②がんワクチン研究で既に有用性の示されている有望ながん標的抗原 Glypican-3(GPC3)、③免疫細胞に抗原特異性を付与するTCR/CAR遺伝子導入、④細胞移植時の免疫拒絶を回避するためにiPS細胞研究所においてバンキングが進行中のHLAホモドナー由来iPS細胞ストックである。1年度目はこれら4つの技術を組み合わせるためにそれぞれの要素において必要なマテリアルの作製や検討実験を実施した。
① 再生T細胞分化誘導技術の効率化、安定化(ⅰ)フィーダー細胞を用いない再生T細胞技術の培養・分化誘導プロトコールの開発(ⅱ)新規分化指標マーカーの探索 ② Glypican-3 特異的T細胞受容体(TCR)クローンの選定 ③ 遺伝子編集、ウィルスベクターによるiPS細胞への遺伝子導入に使用するマテリアルの作製 ④ 研究に使用するHLAホモストックプロジェクトのiPS細胞株の選定(ⅰ)iPS細胞研究所から提供を受けた複数の評価用のHLAホモドナーiPS細胞を現状の最適化プロトコールにおいて、iPS細胞からT細胞前駆細胞まで分化誘導を実施し、増殖効率、分化効率の安定性を評価検討し、一株に絞った。(ⅱ)(ⅰ)の分化誘導実験において、iPS細胞の維持培養の時点で増殖能力に差が生じるクローンがあったため、それらを2つのグループに分けてRNA-seqデータを取得し、細胞内遺伝子発現プロファイルのデータを取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は目標とする細胞を作成するための予備実験や検討が多かったが、①~④の各要素において確実に進捗があり、総じて順調に進展している。具体的には ① 再生T細胞分化誘導技術の効率化、安定化に関して研究チームとして、T細胞由来iPS細胞から誘導した血液前駆細胞からT細胞前駆細胞を誘導する過程でフィーダーフリー化を達成した。また、血液前駆細胞表面上の分化指標マーカーの探索をLegend screeningによって行い、これまでに複数の候補分子を得ることができた。 ② Glypican-3 特異的T細胞受容体(TCR)クローンの選定に関して、共同研究先の国立がんセンターの協力により、腫瘍に効果を示すことが期待されるGPC3特異的T細胞受容体(TCR)の配列情報を複数取得した。 ③ 遺伝子編集、ウィルスベクターによるiPS細胞への遺伝子導入に使用するマテリアルの作製に関して、1年度目においては使用するベクターの構築を行い、その配列情報を決定した。 ④ 研究に使用するHLAホモストックプロジェクトのiPS細胞株の選定に関して、iPS細胞研究所から提供を受けた複数の評価用のHLAホモドナーiPS細胞を現状の最適化プロトコールにおいて、iPS細胞からT細胞前駆細胞まで分化誘導を実施し、増殖効率、分化効率の安定性を評価検討し、一株に絞った。 以上のような進捗状況からおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針は、上記に示した①~④の要素に関して並行的に進めていく予定である。具体的には ① 再生T細胞分化誘導技術の効率化、安定化に関しては、T細胞前駆細胞から機能的な傷害性T細胞を成熟・拡大培養する過程においてフィーダーフリー化を目指す。また、これまでにLegend screeningで取得した複数の候補マーカー分子から、バイオインフォマティクスと分化実験を組み合わせて、実際に使用するマーカーを選択する。 ② Glypican-3 特異的T細胞受容体(TCR)クローンの選定に関しては、共同研究で取得した有望なクローンに関してTCRの遺伝子配列情報を取得、iPS細胞に搭載して、抗原特異的な再生T細胞の誘導し、これらの細胞の詳細な機能解析へと進む。 ③ 遺伝子編集、ウィルスベクターによるiPS細胞への遺伝子導入に使用するマテリアルの作製に関しては、CRISPE/Cas9 system による遺伝子導入において、遺伝子導入後の薬剤耐性濃度の条件検討に進んでおり、今後は実際のベクター合成から開始し、年度内に両方のシステムを用いたiPS細胞株の取得を目指す。 ④ 研究に使用するHLAホモストックプロジェクトのiPS細胞株の選定に関しては、今回の進捗で絞った1株を用いて実際に③で用意した遺伝子導入を施し、実際の細胞の腫瘍傷害活性の高さの比較や実用性の評価を in vitro, in vivo にて検討する予定である。 ①~④はお互いに密接に係る要素であるので、全体としての進捗が一つの要素を制約として遅れを生じさせないよう、エフォート配分に配慮しつつ研究を進めてゆく方針である。
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