本研究は汎用的なタンパク質凝集体難病治療法開発を目指すものである。タンパク質凝集体はALS、アルツハイマー病などの多様な神経変性疾患に共通する形態学的特徴であり、疾患の発症及び増悪との関連が指摘されている。異常な凝集体を形成する環境を回避する方法が治療法として有力とされているが、現在その方法は確立されていない。私はこれまでに、凝集体難病の一つであるクリスタリノパチーをモデル疾患に据え、同病を代表する病原変異体、クリスタリンR120G変異体を用いて、小胞体膜微小環境が抗凝集体形成能を保持することを見出し、その分子実態として機能未知の小胞体膜タンパク質CLN6を同定した。本知見はCLN6の機能の一端を世界で初めて見出したものであり、将来的な治療応用が期待される。したがって本年度は同分子の治療応用に向けて、CLN6の機能発現様式究明を目指した。 初めにCLN6の機能的領域解明に向けて解析を行った。複数のCLN6欠失変異体をコードするプラスミドを作出し、R120G変異体と各欠失変異体をHeLa細胞に共発現させ、凝集体形成細胞の割合を評価した。その結果、ある欠失体までは野生型とほぼ同等の効果がみられたが、さらに欠失させたものにおいては凝集体形成細胞の割合が減弱した。この差分領域の重要性が示唆されたことから、同領域を5アミノ酸単位でアラニンに置換した置換体群を用いて同様の解析を行った。その結果、数種のアラニン置換体において抗凝集体形成能が減弱した。さらに1アミノ酸単位で必要ポジションを限定すべく、1アラニン置換体を用いて同様の実験を行った。その結果、数種類のアラニン置換体において凝集体形成能の減弱がみられた。この結果から、抗凝集体形成能にはこれらのアミノ酸が重要な機能を発揮していることが示唆された。
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