研究課題/領域番号 |
16J09788
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮本 大輔 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
|
キーワード | スーパーコンピュータ / 神経細胞 / 脳シミュレーション / 昆虫脳 / メニーコア / GPGPU |
研究実績の概要 |
本研究では、最大100,000神経細胞スケールのマルチコンパートメントによる詳細なシミュレーションを予定している。この様なシミュレーションは、莫大な計算量を必要とするため、実現するためには、最新のコンピュータ・アーキテクチャに対応した神経細胞・回路シミュレータの構築が必要不可欠となる。 そこで、これまで申請者が取り組んできた京コンピュータでのシミュレータ開発に加え、次世代のスーパーコンピュータを想定し、メニーコアCPU(Intel Xeon Phi、PEZY社 PEZY-SC)やGPGPU環境についても、シミュレータの実装及び試験的なモデルによる計算を行い、メモリバンド幅やキャッシュ効率について比較を行った。 また同時に、細胞膜のイオンチャネルダイナミクス部の数値計算手法について、これまで使用してきたクランクニコルソン法の他、ルンゲクッタ法や、確率過程に基づくもの等について、ベンチマークを行い、必要となる計算量やメモリバンド幅について、測定を行った。この結果については、文部科学省より発行される『計算科学ロードマップ2017』の一部として公開される予定である。 実際に生物学的知見に基づいたシミュレーションを行うためには、上述のような計算環境の整備と同時に、実験データの集積・整理が重要となる。そこで、理化学研究所神経情報基盤センターと協力し、この様な情報を蓄積するデータベースの構築及び試験的な公開を行った(https://cns.neuroinf.jp)。 これに加え,神経細胞形態及びシミュレーションより出力された各コンパートメントの電位情報を元に、3次元可視化を行うソフトウェアの開発を行った。本ソフトウェアは、https://github.com/DaisukeMiyamoto/swc2vtk で、一般に公開している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初の予定通り、実際に昆虫脳シミュレーションを構築するための基盤となる技術である、シミュレータ、データベース、可視化の3点に注力して研究開発を行った。 特にシミュレータについては、当初の予定にはなかったが、Intel Xeon PhiやPEZY社のPEZY-SCについても、実装の対象に加える事ができた。これらのアーキテクチャは1チップあたり、60~1000個という極めて多くのCPUコアを有しているだけでなく、CPUコアやキャッシュの階層性についても先進的な取り組みがなされており、次世代のアーキテクチャに向けたシミュレータ開発について、多くの知見を得ることができた。 また本期間には、理化学研究所神経情報基盤センターと協力し、多くのハッカソンの開催に携わる事ができた。これにより、本研究により開発された技術を活用し、マウス脳等の他の対象への適用についても示唆を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度に開発を行った基盤上に、カイコガ嗅覚-運動系神経回路のマルチコンパートメントHodgkin-Huxley型モデルを構築し、シミュレーションを行う予定である。この様なモデルを構築するために、データベース内のカイコガ神経細胞について、生理学的パラメータ及び細胞形態の2点について、統計モデル化を行う必要がある。 生理学的パラメータについては、進化的的アルゴリズムを用いて、電気生理学的実験結果をもとに各種パラメータを推定する手法が構築されており、これを元に確率分布を推定する手法の開発を行う。 細胞形態については、解剖学的分類と、各種分枝パラメータ(分枝頻度、枝の長さ等)によるクラスタリング結果の比較を行い、最終的に生成モデルを作成することで、大規模シミュレーション用の形態を構築する。またこの時、ショウジョウバエ神経細胞形態など、データベース化が行われている他の昆虫の神経細胞形態とも比較を行う予定である。
|