研究課題/領域番号 |
16J09828
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
松崎 令 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 彩雪 / 氷雪藻 / クロロモナス / 種分類 / 多面的解析 |
研究実績の概要 |
青森県および富山県の山岳地域において、融雪期(5月~6月)に彩雪(氷雪藻類のブルーム)の採集を実施した。得られた彩雪サンプル中に優占していた緑藻クロロモナスの氷雪性の種の遊泳栄養細胞とシスト(休眠細胞)を用いて、ピペット洗浄法による栄養細胞の新規培養株の確立、およびシストからの複数DNA領域の塩基配列データの決定を行った。研究代表者がこれまでに確立した氷雪性クロロモナスの日本産新規培養株、および米国とドイツの公的な微細藻類培養株保存施設から購入した米国、ノルウェーおよび南極産の氷雪性クロロモナスの未同定培養株を用いて、透過型電子顕微鏡レベルの比較形態観察に基づく種レベルの分類学的再検討、並びに複数DNA領域の配列データに基づく分子系統解析を実施した。その結果、新たに3未記載種を含む4種の培養株が同定された。また、彩雪中のシスト、および正確に種を識別した培養株の塩基配列データを比較した結果、同一種と考えられる組み合わせが1つ明らかになった。本種とその姉妹種は栄養細胞の形状や葉緑体表面にみられる眼点の有無で明確に区別可能だが、シストの形状やサイズは一見するとよく似ていた。しかしながら、2種のシストは細胞壁表面にみられる微細構造で区別可能であることが、走査型電子顕微鏡による観察結果から強く示唆された。以上より、シストの微細形態が氷雪性クロロモナスの種レベルの分類形質として有効であることが、分子データに基づいて初めて示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
世界各地の培養株の正確な種同定については、概ね当初の予定通りに進んでおり、現在までに3未記載種を含む4種の培養株を新たに同定している。また、野外サンプル中の氷雪性クロロモナスのシストの解析については、海外産のサンプルの解析こそできていないが、日本の彩雪中にみられる様々なシストの系統上の位置を決定し、それらの多くが複数の新規の系統に相当すること、一部は氷雪性クロロモナスの未記載種に相当する培養株と同一種と考えられることを明らかにした。また、野外サンプル中のシストの走査型電子顕微鏡観察、および正確な種同定を実施した培養株との比較分子解析を組み合わせた結果、シスト表面にみられる微細形態で氷雪性クロロモナスの種を識別可能であることが強く示唆された。以上より、氷雪性クロロモナスの種多様性の解明は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き世界各地の氷雪性クロロモナスの培養株と野外サンプルを収集し、培養株の多面的比較解析に基づく種レベルの分類学的研究、および複数DNA領域の塩基配列データに基づく野外サンプル中のシストと培養株の系統関係の調査を実施する。また、氷雪性クロロモナスの詳細な系統関係を明らかにするために、培養株を用いて核コードタンパク質遺伝子の配列データを新たに決定することを試みる。
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