研究実績の概要 |
氷雪環境から頻繁に採集される、単細胞性緑藻 Chloromonas nivalis の接合子とされている不動細胞の比較分子解析と詳細な形態観察を実施し、日本産の一部のものが実際には新種 C. muramotoi に帰属することを明らかにした。同時に、不動細胞の細胞壁表面にみられる微細構造が、種レベルの分類形質として有用である可能性も報告した(Matsuzaki et al. 2019, PLoS One)。また、山梨大学や千葉大などの研究者と共同研究を実施し、北極域および南極域の残雪や氷河において「赤雪」現象を引き起こす氷雪性微細藻類の種組成を、次世代シーケンサー解析と核ITS-2領域の比較分子構造解析に基づいて網羅的に調査した。その結果、両極の赤雪には緑藻綱13種とトレボウクシア藻綱9種からなる22種が含まれていることが判明した。また、そのうちの7種が解析した全塩基配列の94%を占め、両極から検出されたことから、それらは現在も両極の集団間で交流・分散していると考えられた。更に、高進化速度領域である核ITS-2領域が完全一致する配列を用いて解析したところ、64047種類の完全一致配列が検出されたが、今回解析した両極の全ての地点から得られたものはわずか912種類(1.4%)だった。しかしながら、912種類の完全一致配列が解析した全塩基配列数に占める割合(≒全個体数に占める割合)は、平均で37.3%と高い割合であることが明らかとなった。従って、氷雪藻類の中でも限られた系統だけが全球に共通して分布すること、そのような系統が赤雪上で優占していることが示唆された(Segawa, Matsuzaki et al. 2018, Nature Communications)。
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