研究課題
大電力制御用素子であるパワーデバイスにおいて,高電圧下においても大電流制御が可能な高耐電圧材料を用いることで電力損失の低減が期待できる.β-Ga2O3はその高い耐電圧性能からパワーデバイス応用が期待される半導体材料である.β-Ga2O3とβ-(AlxGa1-x)2O3とのヘテロ接合デバイスはバルク体を超える移動度が期待でき,また通信用途への応用が期待できる.本研究はβ-Ga2O3のヘテロ接合デバイス応用に向けたβ-(AlxGa1-x)2O3薄膜作製と物性評価を目的とする.本研究では酸素ラジカル支援パルスレーザ堆積法によるβ-Ga2O3,β-(AlxGa1-x)2O3薄膜の成長を行った.原料として従来の焼結体に代わり単結晶を用い,また酸素ラジカルの発生条件の検討を行うことで,従来の二桁ほど低い不純物濃度のβ-Ga2O3薄膜の成長を行った.また成長前の基板表面の洗浄・改質法の工夫により初期成長の改善と薄膜の高品質化を行った.一方で不純物濃度測定により基板表面付近の多量の不純物の存在が明らかとなった.β-(AlxGa1-x)2O3薄膜について,従来の単一原料を用いて薄膜成長を行った場合,薄膜表面に高Al濃度の析出物が生じることが問題となっていた.これに対して打ち分け法を用いることにより,析出物がなく薄膜全体で均一な組成を持つβ-(AlxGa1-x)2O3薄膜の成長を行った.先の成長条件をもとにβ-(AlxGa1-x)2O3/β-Ga2O3ヘテロ接合界面を作製し,電子分光法による電子構造評価を行った.構造評価の結果,Al組成x = 0.3においてバンドギャップ4.9 eV,伝導帯バンドオフセット0.24 eVが得られた.これはAl2O3混晶化を行ったβ-(AlxGa1-x)2O3薄膜によってヘテロ接合デバイス応用に必要な伝導帯バンドオフセットが得られることを示している.
3: やや遅れている
本年度の以下3点を行う計画であった.(1) 酸素ラジカル支援パルスレーザ堆積法によるβ-Ga2O3,β-(AlxGa1-x)2O3薄膜の成長.(2) β-(AlxGa1-x)2O3/β-Ga2O3ヘテロ接合界面の電子構造評価.(3) 不純物ドーピングによる導電性β-(AlxGa1-x)2O3薄膜の作製. (1)基板表面処理や薄膜成長法の再検討により,高品質β-Ga2O3,β-(AlxGa1-x)2O3薄膜の成長法を確立した.一方で基板表面付近の多量の不純物の除去が課題となっている.(2)電子分光法を用いることでβ-(AlxGa1-x)2O3/β-Ga2O3ヘテロ接合界面の電子構造を明らかにした.これについては当初の計画通りである.(3)現在不純物ドーピングによる導電性の発現に着手できていない.この原因について,装置立ち上げの遅れや薄膜の高品質・高純度化や基板表面付近の不純物除去について多くの時間が掛かっている事が挙げられる.
来年度は基板表面付近の不純物除去のため基板表面処理の再検討を行う.表面処理方法としてウェットエッチング・ドライエッチングから検討を行う.また,β-(AlxGa1-x)2O3薄膜成長前のバッファー層の導入によって,基板表面付近の不純物の影響の緩和についても検討を行う.これと並行して不純物ドーピングによる導電性β-(AlxGa1-x)2O3薄膜の作製を行う.ドーパントとしてSiを用いる.Siによる導電性の発現が難しい場合,Snなどの他のドーパントによる導電性の発現の検討を行う.導電性β-(AlxGa1-x)2O3薄膜について各種電気特性を明らかにする.各Al組成によるキャリア濃度依存性を測定することにより,先に明らかにした電子構造と合わせて最適なAl組成を決定する.これらの条件をもとに変調ドーピング構造の作製を行い,容量-電圧測定によるキャリア濃度の深さ分布と電気特性から二次元電子ガスの存在を明らかにする.
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Japanese Journal of Applied Physics
巻: 55 ページ: 1202B6-1~5
10.7567/JJAP.55.1202B6
巻: 55 ページ: 1202B7-1~3
10.7567/JJAP.55.1202B7
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