研究課題/領域番号 |
16J09832
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
若林 諒 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 酸化ガリウム / ワイドギャップ半導体 / 酸化物 / パルスレーザ堆積法 / 結晶成長 / バンドギャップエンジニアリング / ヘテロ接合 / 電子構造 |
研究実績の概要 |
本研究はβ-Ga2O3のヘテロ接合デバイス応用に向けた薄膜成長および物性評価を行う研究である.昨年度ではβ-(AlxGa1-x)2O3/β-Ga2O3ヘテロ接合界面に関する電子構造を明らかにした.また,電気特性評価に向けてβ-Ga2O3基板表面上の不純物の存在が課題であることを明らかにした.これらを踏まえて本年度は下記の3つに取り組んだ.(1) 絶縁性MgO基板への導電性β-Ga2O3薄膜の成長 (2) 不純物除去に向けたβ-Ga2O3基板への表面処理の検討 (3) 全率固溶β-(AlxGa1-x)2O3薄膜の成長とバンドギャップ評価 (1) MgO基板はβ-Ga2O3薄膜成長に用いられる単結晶基板の1つであり,非常に高い絶縁性を有することからβ-Ga2O3薄膜の電気特性評価に有効であると考えられる.そこでMgO基板上への導電性β-Ga2O3薄膜の成長を行ったところ,結晶性・導電性の点からMgO基板はβ-Ga2O3薄膜の成長用基板として有用であることが明らかになった.一方で更なる結晶性向上の必要性が明らかになった. (2) β-Ga2O3基板表面の不純物の除去に向けて,ドライエッチング・ウェットエッチングによる不純物除去の検討を行った.これらの結果,リン酸を用いたウェットエッチングにより基板表面の不純物Siを約1/10まで低減した.一方でリン酸処理後のβ-Ga2O3基板上に成長したβ-Ga2O3薄膜は結晶性が大きな悪化したことから,今後の電気特性評価に向けて表面平坦性・結晶性の改善が必要であることが明らかになった. (3) β-(AlxGa1-x)2O3の更なる電子構造評価に向け全Al組成β-(AlxGa1-x)2O3薄膜の成長を行った.従来の固溶限を超える全Al組成のβ-(AlxGa1-x)2O3薄膜成長を達成するとともに,さらにこれらのバンドギャップ変調を明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度からの課題であったβ-Ga2O3基板表面の不純物の存在について,本年度ではウェットエッチングが有効であることが明らかにした.これにより不純物除去に向けたプロセス開発の方針が定まった.またこの過程でβ-Ga2O3薄膜の結晶成長技術を確立した.これによりβ-Ga2O3薄膜の更なる高品質化が期待でき,先の不純物除去と合わせて今後の電気特性特性に関する進展が期待できる. また本年度ではβ-(AlxGa1-x)2O3の全率固溶の実現とともにそのバンドギャップエンジニアリングを明らかにした.昨年度明らかにしたβ-(AlxGa1-x)2O3/β-Ga2O3界面の電子構造と合わせて,β-(AlxGa1-x)2O3系のエネルギーバンド構造に関する基礎物性が明らかになった.これらの結果はデバイス設計に関する重要な知見であり,今後のβ-(AlxGa1-x)2O3系ヘテロ接合デバイスの大きな前進につながると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
来年度はβ-Ga2O3基板の表面処理プロセスの確立を目指す.本年度明らかにしたウェットエッチング技術を基に,不純物量・表面平坦性・結晶性などの観点からエッチング条件の再検討を行うとともに,エッチング処理後の二次洗浄などの検討も行う予定である. 表面処理プロセスを確立後,β-(AlxGa1-x)2O3薄膜に関する電気特性を行う.Al組成やドーピング濃度に対する電気特性依存性を明らかにするとともに,これまで明らかにしてきたβ-(AlxGa1-x)2O3に関するエネルギーバンド構造に関する知見と合わせて,ドナー準位・活性化率に関する考察を行う予定である. これと並行してヘテロ接合デバイスのための新たなバリア層としてβ-(Ga1-yScy)2O3薄膜の検討を行う.β-(Ga1-yScy)2O3薄膜の成長条件検討に加えバンドギャップエンジニアリングを明らかにする予定である.
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