研究課題/領域番号 |
16J09891
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊川 美保 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 統計リテラシー / リスク認知 / リスクコミュニケーション |
研究実績の概要 |
第二年度は,統計リテラシーが食品のリスク認知とベネフィット認知に及ぼす影響について検討した。人々の統計リテラシーに着目することで,リスクと感情に関する先行研究の知見を発展させた。先行研究によると,人々は感情的なイメージに沿ってリスクやベネフィットを知覚する傾向にある。そして,快感情のときはリスクを低く,ベネフィットを高く知覚するなど,リスク認知とベネフィット認知は一般的に負の相関を示すと言われている。一方で,統計リテラシーの個人差研究では,統計リテラシーの高い人は感情ではなく数値に基づいて判断することが指摘されている。よって,「リスク認知とベネフィット認知が負の相関関係を示す」という知見は,統計リテラシーの高低によって異なることが予想される。 研究1はコーヒーを題材とした。参加者には,コーヒーのリスク情報(非喫煙者の男性でコーヒーを1日に1杯以上飲む人は膀胱がんのリスクが2.2倍高い)と,ベネフィット情報(コーヒーを1日に1-2杯飲む人は肝臓がんのリスクが0.5倍に低下する)を呈示した。そして,統計リテラシーの中央値を境に,コーヒーのリスク認知とベネフィット認知の相関係数を算出した。その結果,統計リテラシーの高い群は情報提供後にリスク認知とベネフィット認知が正の相関に変化することが示された。 研究2は,赤肉・加工肉を題材とした。参加者には,赤肉・加工肉のリスク情報(肉類全体の摂取量が多いグループで男性の結腸がんリスクが高くなり,赤肉の摂取量が多いグループで女性の結腸がんのリスクが高くなる)と,ベネフィット情報(肉にはコラーゲンやビタミンB1など栄養分を豊富に含まれている)を呈示した。分析手続きは,研究1と同じであった。その結果,研究1と同様に,統計リテラシーの高い群に限ってリスク認知とベネフィット認知が情報提供後に正の相関関係に変化することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の研究課題の達成に向けて,おおむね順調な進捗状況であると思われる。その理由は以下の二つである。第一に,上述の統計リテラシーとリスク認知に関する研究が,学術雑誌に掲載される予定であるからである。第二に,統計リテラシーの実践研究として,全国4つの高校で出前授業を行うことができたからである。
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今後の研究の推進方策 |
第三年度は博士課程の最終学年であるため,博士論文を執筆することが重要である。博士論文の各章の構成として,下記の内容を予定している。 第一章では,リスクリテラシーに関する学術的・社会的背景を記す。先行きの不透明なリスク社会の到来や,リスク認知やリスクコミュニケーションに対する社会的関心について,国や日本学術会議の資料をもとに論述する。また,リスクに関する社会心理学の研究を概観し,リスク情報の送り手側からの検討は多くなされてきたものの,受け手に求められる能力としてのリスクリテラシーの研究は十分ではないことを記す。なお,現代社会を取り巻くリスクとして様々なものが挙げられるが,食の安全・安心は国民的関心が高いことから,博士論文では食品リスクに焦点を当てる。 第二章では,リスクリテラシーの測定に関する研究を記す。海外の研究を参考に,統計リテラシーを測る尺度を作成したことを述べる。統計リテラシーと関連する概念(例:ニューメラシー,批判的思考)との構成概念妥当性や,統計リテラシーがリスク情報の批判的読解に及ぼす影響(予測的妥当性),Cronbachのα係数といった内的一貫性についての結果を報告する。 第三章は,リスクリテラシーとリスク認知に関する研究を記す。リスクリテラシーの個人差が,リスク情報の理解やリスク認知にどのような影響を及ぼすかについて報告する。統計リテラシーと放射線への不安の関係や,統計リテラシーと食品リスク認知・ベネフィット認知の関係について,過去の研究結果を取りまとめる。 第四章は,リスクリテラシーとリスク教育に関する研究リスクリテラシーの個人差に応じた情報提供のあり方や,リスクリテラシーを高めるための教育のあり方について,自身の研究活動を踏まえて論述する。
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