研究課題/領域番号 |
16J09909
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉原 有里 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 二光子同時放出核種 / 動的放射線イメージング法 / コンプトンカメラ / 廃止措置 |
研究実績の概要 |
本研究目的は、福島第一原子力発電所の廃止措置に向けて、原子力建屋及び施設内に分布するガンマ線放出核種を可視化することである。福島第一原子力発電所の事故により飛散したガンマ線放出核種は無数にあるため、本研究では、2本のガンマ線(光子)を同時に放出する二光子放出型核種を対象とし、リアルタイム計測をしながら測定対象核種を探索する動的放射線イメージング法の確立を目指している。 そのために、新規の検出器設計や二光子放出型核種に対する計測システムの構築と再構成手法の確立を予定している。 これまでに、動的放射線イメージング法のための検出器開発と計測システム構築まで完成している。検出器については、1年目の調査結果により、安定動作と高線量率対応の観点から、申請時に予定していた半導体検出器からGAGGシンチレータを用いることとした。また、計測システムについては、取得したガンマ線の計測データを、自己の位置情報を取得するためのレーザーセンサと同期させて取得するDAQ(データ取得システム)を構築しリモートデスクトップで接続した。これにより、遠隔でのリアルタイムデータ取得が可能となり、動的放射線イメージング法の実現に一歩近づいた。 また、構築した計測システムの原理検証を実施した。原理検証の結果から、温度補償の必要性、エネルギー分解能の改善、再構成手法の高度化が課題として挙がった。温度補償については既に温度センサーの取り付けとセンサーの動作確認が完了している。エネルギー分解能については、時間幅を測定するためのクロックを高速にするため、新しいDAQとファームウェア開発を行っており、これによりエネルギー分解能への量子化誤差の寄与が4分の1に低減すると予想される。現在は、MLEMなどを加えた画像再構成などのソフトウエア部分の開発を行っている段階であり、最終年度内の動的放射線イメージング法の確立を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画としては、1年目には動的放射線イメージング法の検出器の初期開発と検証を行い、2年目には検証結果をもとに検出器の本開発と計測システムの構築を予定しており、それらは達成されている。最終年度に当たる本年度は、再構成などのソフトウェアの開発を行い、現場でのデータ取得を予定しており、現在までの進捗については、申請時に予定していた計画に従い概ね順調に進展していると言える。 進捗状況に関しては問題はないが、本研究でアプローチできなかった点として、制御の組み込みがまだ試験できていないことがある。計測結果を制御にフィードバックすることで、自動的にガンマ線放出核種を探しにいくモデルを申請時に想定していたが、福島第一原子力発電所ではドローンが墜落した場合に回収できず廃止措置の妨げになることから非常にリスクがあり、現在は手持ちあるいはドローンの手動操作を予定している。したがって、現状の対応としては計測システムのリアルタイムモニタリングを可能とすることで、操縦者への計測情報のフィードバックを行なえるようにしてあるので、計測システムの観点からは動的放射線イメージング法達成のための作業は完了している。あとは、現場での自動操作が実際に可能となれば、操作者ではなくその制御部へ放射線計測結果をフィードバックすれば良いことになる。 本年度はさらに、研究進捗で報告しきれていない部分に関して、積極的に学会発表や論文投稿などを行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、構築した計測システムの原理検証により浮かび上がった課題に取り組んだのち、その後現場での測定を予定している。原理検証により浮上した、温度補償の必要性、エネルギー分解能の改善、再構成手法の高度化のうち、温度補償についてはすでに対策済みである。エネルギー分解能の改善のための新しいDAQとファームウェア開発と、MLEMなどを加えた画像再構成などのソフトウエア部分の開発の2点に対して重点的に取り組む。 また、それらの取り組みが完了し原理検証を終えたのち、現場での測定を予定する。現場での測定は線量率が高い場所では入場時間に制限がかかるため、計測開始と計測中に不具合が生じないように入念に準備する必要があり、共同研究者らと十分な議論を重ねる必要があると考えている。本年度はさらに、研究進捗で報告しきれていない部分に関して、積極的に学会発表や論文投稿などを行っていく予定である。
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